小説 川崎サイト

 

夜中の出来事

 
 夜中、戸を叩くものがいる。そんな時刻訪ねて来る人などいないはず。これは聞き違いではないかと田村は考え、布団から出なかった。
 すると、また叩く音。錯覚ではないが、聞き違いかもしれない。しかし、風はなさそうで、また、いつも聞く表戸の音だ。他に似たような音を思い出そうとしたが出てこない。
 出ると何か悪いものと接触しそうで怖い。田村は布団から出ないことにしたが、そのまま平気で眠れるものではない。既に神経が全開で、小さな物音でも聞き逃さないほど研ぎ澄まされていた。この状態では寝入れないだろう。
 もう一度音がすれば、そのときは出てやろうと思っていると、また音。これは確実に誰かが戸を叩いている。しかも声を出さないことから静かに呼び出しているのだ。戸を叩く音もかすかに聞こえる程度なので、控え目だ。やはり夜中ということもあって、隣近所に聞こえないように叩いているのだ。そして田村が出ないので、何度も叩いているのだが、その間隔は普通だ。まだ出て来ないな、と思い、また叩くのだろう。
 このままでは朝まで叩いているかもしれないが、熟睡していると、聞こえなかったりする場合もある。だからそれで通す方法もあるが、相手が誰なのかが分からないので、やはり出るべきだろう。
 夜中に叩き起こされるとはこのことで、これはいい話ではない。何か良いことの知らせではないはず。
 その覚悟で田村は布団から出て、寝間着のまま表戸が見える場所まで来た。
 そして、また叩く音。
 田村は決心し、戸を開けた。
「夜中、ウロウロしている人いるので、注意してくださいね。では」
 男はそう言うなり立ち去った。
 これだけで済んだのかと思うと、田村は安心した。
 夜中、ウロウロしているのは、この人自身だろう。田村は男が立ち去る後ろ姿を見ていたのだが、隣の家に向かったようで、ドアをノックする音が小さく聞こえる。
 これは夢ではないのかと、一瞬思ったが、テレビを付けるとテレビショッピングをやっている。これも夢のうちかもしれないが、携帯で部屋の電話にかけると、しっかりと呼び出し音がする。夢ではなさそうだ。
 しかし、夜中にウロウロしている人がいると告げに来たその人、一体どんなものがウロウロしていると思っているのだろうか。
 
   了


 


2017年9月7日

小説 川崎サイト