小説 川崎サイト

 

ある未来

 
 未来を見据えすぎて、見過ごしたものが結構ある。それらはその時代、陳腐なもの、出来上がったもの、既成のものになったものなど様々だが、若い人達は新しいものを目指す。古いものは既に満員なので入り込めないというわけではないが、今までになかったような、または先々流行るような新鮮なものなどを選ぶ。上手く行けば先駆者になれる。第一人者になれる。
「どうでしたか、思っていたような未来でしたか」
「違っていました」
「あなたが望んでいた未来ですよ。それが実現しているのですよ」
「思ったよりもよくありません」
「古いものが廃れ、あなたたち若者が盛り上げようとしていたものが盛り上がり、それが天下を取ったのですよ。何の不満が」
「最初の頃はよかったのですが、今では……」
「今では、何ですか」
「昔とそれほど変わり映えしないものになりました」
「歴史は繰り返される。ですね」
「はあ」
「じゃ、古い時代に戻りますか」
「あれはあれで、新しかったのでしょうねえ。僕が生まれたときは既に出来上がった世界でしたが、その前の時代の人達にとっては未来の姿だったのでしょう」
「だから、次の未来も似たようなものになりますよ」
「もうその頃は僕などは年老いてただの傍観者です」
「やはり、その人の青春時代の世界が、世界の全てなのかもしれませんねえ。そこがベースになっているとよく言われるでしょ。そしてそこから一歩も先へは進めない」
「そうなのですか。ただ、今思うのは、あのとき既成もの、陳腐なものだと思い、馬鹿にしていたことが、妙に懐かしいのです。当時毛嫌いしていましたが、今なら耳を傾けてもいいし、もう一度見たい。当時は溢れかえるほどありましたが、最近は絶滅状態ですから」
「当時のあなたたちが潰したものでしょ」
「僕たちがどうかしなくても、いずれは消えるものだったと思いますよ」
「しかし、それがいいと」
「ええ、懐かしいです」
「それを懐古趣味というのですよ。あまり未来に良い事が起こりそうじゃない場合、過去を覗くものです。しかし過ぎ去ったものを追っても戻れませんからね」
「はい、だからそんな期待はしていないのですが、あの頃のものは、実は本心では好きだったのです」
「そうなんですか」
「しかし、それに逆らったのでしょうねえ」
「若者にありがちなことです。元気があっていいじゃないですか。今の若者にはそんな元気はあまりないですからね」
「はい」
「私などは、そういう繰り返しを何度も見てきたので、ああ、またやっている程度です」
「はい」
「昔に比べて、今の方が確実によくなっている面が多いのですがね。それでも不満ですかな」
「いえいえ」
「急に静かになられたが、どうかされましたか」
「いえいえ」
「何処か身体でも」
「いえ、大丈夫です」
「まあ、もう我々の時代じゃないのですが、居座っているのは事実です。あなたの嫌っていた既成のものの座に居残り続けているのですからね」
「しかし、あまり居心地はよくありません」
「私もです」
 
   了
 


 


2017年9月9日

小説 川崎サイト