小説 川崎サイト

 

足止め

 
 ある場所へ行こうという日に限って都合は悪くなる。この都合は用事ではなく、身体の都合だ。それが二回続くと、ちょっと変な気になる。それまでほとんど風邪など引いたことがないのに、引いてしまう。出掛ける朝、起きてみると風邪。喉ががらがらになっている。当然熱があり、ふらっとするので、出掛けるどころではない。仕事も当然休む。
 それが三回目になると、これは何か違うものが動いているのではないかと感じる。何かの作用だ。
 宮田がその朝起きたとき、今回は風邪ではないが、腹が痛くなった。仮病でよくある理由だ。しかし、嫌なことで行くわけではない。ちょっとした義理があり、これは行かないといけない。二度もアクシデントで行っていない。行くことをしっかりと電話で伝えている。
 しかし三回続けてでは何ともならない。これは誤解されるだろう。前日まで何ともなかったのだ。それが朝になって足止めを食らったようになる。前回の風邪では翌日はましになり、寝込むほどではなかった。
 今回の腹痛も、これもまた滅多に起こらない。宮田が腹痛になるのは食あたり程度。しかし痛くて動くのが厳しい状態は希。その腹痛は午後には治っている。その時間からでは間に合わない。
 何かが止めているのだ。当然何かなので、宮田の意志ではない。
「宮田さん、それはあなたが止めているのですよ」
「そんな気はありません」
「本当は行きたくないのでしょ」
「そんなことはありません。これは私から進んでやっていることです。誰からも命令されたわけでも、誘われたわけでもありません。だから嫌々行くのとは違うのです。行きたいから行くのです」
「しかし本当は行きたくない」
「それは絶対にありません。だから何かの祟りか呪いではないかと思い、相談に来たのです」
「祟られるようなことがおありですかな」
「思い当たりませんが、私の知らないところで、私を恨んでいる人がいるのかもしれません」
「その行き先にいる人ですか」
「そうです。来て欲しくないのではと」
「そんなことで、風邪を引いたり、腹を壊したりしませんよ」
「それは分かっているのですが、三回も続いたのです」
「だからご自身で足止めしたのですよ」
「それはよくあることですか」
「さあ」
「じゃ、誰が悪いのです。私ですか」
「おそらく」
「ふむ」
「心の何処かで行くのを嫌がっています」
「そんなことはありません」
「だから、心の底の方なので、意識できないのです。そんなことはないと思われて当然でしょうねえ。思い当たらないでしょ」
「当然です」
「じゃ、悪霊か何かの仕業にしますか」
「お願いします」
「はいはい。じゃ、護符を差し上げます」
「待ってました」
「これを期待されていたのでしょ」
「そうです」
 宮田はその護符をカード入れに差し込むことにした。そして、その霊験からか、四回目の足止めは起こらなかった。
 
   了



2017年9月16日

小説 川崎サイト