小説 川崎サイト

 

野菜生活

 
 木島は野菜をよく食べている。朝は何種類もの野菜の入ったサラダだし、その上、野菜の煮物や炒め物も食べる。一人暮らしなので、それらは自身が用意する。自炊はご飯を炊くだけではなく、おかずも作らないといけない。こちらの方が実は手間がかかる。二三日外食でもしようものなら野菜はしなるし、枯れ始めるし、豆腐なども賞味期限が怪しくなる。
 木島は草食動物ではないが、野菜をよく食べる。好きか嫌いかではなく、野菜が体にいいという知識だけで食べている。食べ物のほとんどがそうで、意味で食べているのだ。当然おいしいことが大事で、これは直接舌に来るし、歯や歯茎や喉ごしにも来る。
「野菜の食べ過ぎじゃないの。肉とか食べてる」
「食べてるよ。どちらかというと肉けのものが多かった。それで体調を崩したわけじゃないけど、食事療法の本を読んでね。それからは野菜メインに切り替えたんだ」
「あそう」
「君もやってみないか」
「効くの」
「食べてすぐじゃ効かないよ。続けないと」
「そうだね。漢方薬と同じだね」
「体質から変えるんだ。しかし……」
「何」
「最近野菜をおいしいとは思えなくなった」
「あ、そう」
「これは何だろう」
「食べ過ぎじゃない」
「そうかなあ」
「体が野菜を欲しがっていないんだよ。もう十分だって」
「そうかなあ。君はどうしてるの」
「食べたくなったら食べる」
「ほう」
「体が必要としているのが分かる。体が草を欲しがっているのがね。だからそのとき食べる。肉や脂っこいのが食べたくなれば、それを食べる。今、必要なんだろうねえ。油を早く差してくれって、体が言っているようなものだよ」
「ほう」
「それで肉ばかり食べていると、もう油は十分入ったので、もういいからさっぱりしたものを欲しがる」
「それで野菜へいくわけ」
「そうそう」
「それはバランスのいい献立とは言えないなあ」
「だから、そういう知識で食べていると、体が黙ってしまうんだ。せっかく欲しがっているのにね。必要だと訴えているのに」
「それも考え方だなあ」
「だから考えていないよ。体が教えてくれるんだ」
「食べたいものを勝手に言い出しているんじゃないの」
「食べたいと思うこと自体が体が言っているんだよ」
「体からの声を聞けって言うやつだろ。それもあるけど」
「頭を使いすぎると、甘いものが欲しくなるし、運動して汗をかくと塩気のものが欲しくなる」
「いや、塩分や甘いものは控えるようにしている」
「まあ、どちらにしても腹が減れば腹に何か入れればいいんだよ。それさえ難しい人もいるんだから」
「じゃ、次は粗食を心がける」
「好きなものじゃなく、粗食かい」
「そうだ」
「はい、勝手にどうぞ」
 
   了



2017年9月18日

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