小説 川崎サイト



休憩中

川崎ゆきお



「少し休憩したいと思うのですが」
「休憩してるじゃないか」
「だから、もう少し」
「かなり休憩中だと思うけど」
「あと一週間ほど」
「長いねえ。まあ、休憩でも出社するんだろ」
「はい、いつものように」
「じゃあ、いつもとかわらないじゃないか」
「ですから、もう少しこの状態で」
「うちはリハビリセンターじゃないからね。いつまでも休憩出勤じゃ困るんだけど」
 係長は言い過ぎたと後悔した。
「今のは言わなかったことにする。いいね」
「はい」
「君も聞かなかったことに」
「はい聞いていません」
「じゃあ、一週間ほど、この状態でよろしい」
「ご迷惑かけます」
「いや、別にかわらんよ」
「蒔田さんにもよろしく」
「君の分まで仕事しているからね。最近、おっかないよ」
「ご迷惑かけます」
「早く復帰してくれないかなあ」
「僕ですか?」
「決まってるでしょ」
「回復すると思いますから、もう少し待ってください」
「もう、治っていると思うんだけど、どうなの?」
「いや、まだ調子が悪いです。出社できる程度で、そこから先は本調子ではありません」
「君の本調子ってどんな感じだった。忘れたよ」
「僕は覚えています。ちゃんと仕事ができていました」
「そうだったかなあ」
「また、あの頃に戻れると思います」
「まあ、出社するだけでいいんだから、難しく考えることないんだよ」
「そうなんですが……」
「で、医者はどう言ってるの?」
「回復してきていると……」
「じゃあ、もう回復してるんじゃないの」
「いえ、まだ、自発的に何かをやろうと思う意欲がないんです」
「それって、私もそんな時多いよ。誰でもじゃない」
「それが長く続いているんです」
「だから、そういう状態でも仕事できるよ」
 係長はまた言い過ぎたことに気付いた。
「今のも聞かなかったことにしてね」
「はい、聞いていません」
 
   了
 
 


          2007年5月4日
 

 

 

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