小説 川崎サイト

 

バス停から乗る新幹線

 
 バス停近くに立っていると、横に急に旧友が自転車に乗って現れた。久しぶりだ。元気にしていたようだ。
 近藤はバス停前に止まっている大きな工事用の作業車へと旧友を誘った。バス停前で工事をしているのだろう。しかし場所的に邪魔だ。バス停のバスが入ってこられない。
 作業車の前は目隠しが為れている。家の工事などではよく見かける。
 近藤は旧友をその目隠しの中へと誘った。これなら早いと。
 この旧友とバスに乗って出掛けるようだが、バス停で待つのではなく、目隠しの中へ入った。とすると道路の下だろうか。
「このまま新幹線に乗れる」
「自転車はどうする?」
 旧友は高そうなスポーツ車に乗っている。タイヤが糸のように細い。流石に自転車と一緒に新幹線には乗れない。
「困ったなあ」
 近藤の夢はそこで覚める。そのバス停は実在し、よく利用した。銀行の前にあった。
 旧友も実在している。しかし一緒に新幹線に乗ったことはないが、旧友が引っ越すとき、仲間と共に新幹線のホームまで見送りに行ったことがある。旗まで用意していた。これを企てたのは旧友自身で、もの凄くわざとらしい見送りになった。見送る側ではなく、見送られる側が旗などを用意したのだから。
 旧友と新幹線との関わりなど、その程度。その後、彼は消息を絶った。引っ越し先の住所は分かっているのだが、そんな住所はなかったし、電話も通じなかった。
 そのまま彼のことなど忘れていたのだが、それが夢の中で現れた。
 夢が何かを知らせたわけではない。夢の意味は見た本人が勝手に解釈して物語を作ってしまう。だからどうとでも解釈できるのだが、肝心要のところは夢に出てこないのだろう。これを夢の検閲と呼ばれている。チェックを受け、夢として見せないようにしているのだ。
 夢の中の旧友は最後に見たときに比べ年を取っていた。この映像はどこから来ているのだろう。若い頃の顔しか知らないのだから、記憶の中から出てきたのではなさそうだ。または合成だろうか。おそらく年取れば、こんな感じになると。
 そして近藤も今の年齢のまま夢の中にいた。この夢の中でその絵はないが、昨日今日の自分だった。
 本来バスで行くところを新幹線で行くことにしたのは近藤だ。しかし旧友は自転車で行くつもりだったはず。これで目的地までの距離が分かる。
 謎めいているのが作業車と、その周りに張り巡らされた目隠し。その入り口を近藤は知っており、それをめくるとさっと入れるのだろう。そこからどうして新幹線乗り場まで行くのだろう。おそらく工事中の道路が怪しい。きっと掘り返しているはず。
 だが、道路の下から行けるものではない。地下鉄はこの近くにはない。
 そして近藤は道路ではなく、作業車の中に入ろうとしていた。この作業車に秘密があるようだ。工事用のフェンスは高いものではないのだが、作業車の絵は一度も出てこない。しかしそれが停まっていることを近藤は知っている。
 だから作業車ではなく、それは新幹線ではなかったのか。そのため、ここからならすぐに新幹線に乗れると旧友に言ったのだ。
 旧友が引っ越したのは、近藤も関係している。そのことは夢の中では出てこない。つまりあのとき、旧友を追い出すように遠くへ行かせたのかもしれない。それは近藤が一番よく知っていることだ。
 しかし旧友は自分の意志で引っ越している。だが、小旗まで用意して振らせたのが解せない。何か当てつけのようにも思える。
 この夢を近藤が見た後も、その旧友の消息は途切れたままだ。
 
   了

 


2017年10月8日

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