小説 川崎サイト



青い世界

川崎ゆきお



 人それぞれに世界がある。
 人の数だけ世界があると言ってもよい。ただその世界は重なり合った世界で、独立した世界があるわけではない。
 銀世界は雪の積もったスキー場とかを指すが、雪のない季節は銀世界とは言わない。
 つまり名付けられた世界だ。
 その日、堂上は世界を作った。平凡な中年男で、ラフなスタイル。ファッション性の低いお洒落ではない男。服装にかまわないわけではない。かまうとラフな格好ができなくなる。
 また、ファッションを気にする色気もない。
 着ているもので、その人の世界が見え隠れする。帽子やカバンや靴もそうだ。そこから繋がる世界がある。
 だが堂上は、若い頃見ていた世界から離れていた。もう見ようとはしていないのかもしれない。
 天気のいい日だった。行楽地の公園は人々で賑わっている。家族連れや何かの団体さんやカップルや旅行客、海外からの観光客もいる。
 老人グループもいれば中学生の集団もいる。
 公園の高台には小鳥でも写すのか、長い望遠レンズを三脚に取り付け、撮影中の団体もいる。
 公園には公園の世界ができている。
 堂上もその世界に溶け込んでいる。安上がりの行楽を楽しむ仲間のようなものだ。この公園は入場料はいらない。
 堂上は公園の一角に青いものを見る。しかしそれ以上見ない。それが何であるかを周知しているためだ。
 その青い世界だけは公園の世界とは空気が違う。
 青いものはテントだ。誰が住んでいるのかは堂上はよく知っている。
 しかし、今日の堂上は、普通のお父さんの世界に入っている。
 しかし、家族連れではない。一人で公園内を歩いているのだ。
 植木市を冷やかしたり、露店でイカ焼きを噛ったりする。
 今日だけは普通に公園を利用している。
 だが、堂上のように一人で歩いている人は少ない。
 堂上のことを注目するような人はいない。全く目立たないからだ。
 堂上は、いつかはこの普通の世界に戻りたいと思っている。
 あの青い世界から抜け出て……。
 
   了
 
 
 
 

          2007年5月6日
 

 

 

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