小説 川崎サイト

 

地下鉄通路の怪

 
 夜中、もう最終近くになっていた。まだ二三本余裕があるはずなのだが、予定していたよりも遅くなった。その夜、三木はイベントへ行ったのだが、終わるのが伸びた。アンコールはなかったのだが、遅い時間までやっていた。早く終わって欲しいほどいいものではなかった。若い頃を知っているだけに、年取ってからもう出なくてもいいのにと思う気持ちの方が強かった。見苦しさだけが気になった。
 しかしそのミュージシャン、それがかっこいいと思っているようだった。金を払った分、楽しまないと損だと思い、できるだけ合わせよとしてが、それにも限界があった。
 そんなことを思い出しながら、急ぎ足で地下鉄に乗り、乗換駅で降りたのだが、久しぶりに降りたためか、何か様子が違う。ホームの一番先にトイレがあるはずなのだが、ない。移動したのだろうか。しかしトイレのあった場所はただのタイルの壁で、奥はない。
 この地下鉄駅は二階建てになっており、一度下へ降りないといけないのだが、降り口がない。
 ここで気付いてもいいはずだ。降りる駅を間違えたのだと。しかし、まだ知っている駅と思い込み、別の通路を探した。改札から出てしまうと地上に出てしまうので、それを避け、ホームの反対側へ向かった。駅名はしっかりと書かれているが、目に入らない。そんなもの見なくても分かると思っているというより、駅を間違えたことなど頭にないためだろう。だから、そんな確認はしない。
 すると、ホームの右側に通路があった。
 三木はその通路は以前からあるものと思っていた。似たような通路のためだろう。この通路からでも下へ行けるはずなのだが、下り階段がない。長く一直線に伸びており、階段らしいものはない。このまま行けば地下鉄の走っている道路の向こう側の改札へ出てしまう。どちらにしても下へは行けない。
 しかし、降り口があったはずなので、その記憶通り奥へ奥へと進んだ。頭の中にあるこの駅の地図と違う。こんな構造ではない。何処かで知っている場所に出れば、今何処を歩いているのか、さっと分かるはず。
 しかし通路は何処までも続いている。こんなに長い通路などなかったはず。しかし、近いところを走っている別路線の駅への乗り換えで、長い通路もある。だが、この駅はそんな場所ではない。それにもう道路も横断しているはず。
 照明が奥へ行くほど薄暗くなってきたのは電灯の間隔が長いためだ。最低限の照明。そのため一つの電灯が灯す明かりが届かなくなっている箇所もある。僅かだが下か黒い。
 そのうちポタリポタリと水滴が落ちる音。足元を見ると、濡れている。タイルは茶色くなり、ぬるっとした嫌な色目。錆や苔が見える。
 この時点で乗換駅からの終電の余裕が一つ消えている。時計を見ると、最終に間に合うかどうかだが、ここからの距離が計算できない。これは無理だろうと諦めるしかない。
 それよりも、この通路、何処へ繋がっているのだろう。
 やがてタイルからコンクリートだけになり、さらに進むと素掘りの洞窟になる。
 水溜まりがあるどころか、水が流れている。
 しかし、電灯はまだあり、その光源を背後に受けた人影がこちらに来る。
 近くまで来たとき、それがあのミュージシャンだと分かる。ただの老いたおじさんだが、怖い顔をしていた。
 
   了

 


2017年10月12日

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