小説 川崎サイト

 

豚まんと商談

 
「豚まんはあると」
 平沼は昼前に出掛け、戻る手前だ。まだ用事は残っている。商談中だ。
「豚まんは三つ入り。しかし小さい。パン屋の豚まんは小さい。これは一つじゃなく、二つ食べないと腹が減るだろう」
 というようなことを思いながら商談を続けている。
「レンジで温めるとカラカラになる。水を入れても似たようなもの。それに生地が硬くなることもある。やはり蒸し器で蒸すのがいいだろう」
「では、次回はこの続きを」
「あ、そう。これぐらいでいいの」
「はい、今日はここまでで、続きは後日」
「ああ、分かりました」
 先方が伝票を掴み、立ち上がったので、平沼も立つ。
「豚まんがある。昼はこれを食べればいい」
 当然、これは声を出して言っていない。
「じゃ、またお電話します」
「一つ残る」
「え、何か」
 思わず、声にしてしまったようだ。
「いや、何でもない」
「疑問な点がまだありますか」
「一つ残るんだがね」
「やはり、あるんですね」
「一つじゃ物足りない」
「え、疑問点が他にもまだもありますか」
 流石に豚まんの話はできないので、適当に誤魔化した。
「今日の昼は二つあるからいい。しかし明日の昼は一つだ。これをどうするか」これは声を出して言っていない。
「確かに一つ不備な点はあります。よく気付かれましたねえ」
「いやいや」
「そして、それは後々、問題を起こす可能性もありますが、それは何とかなる問題でして、足したり、または別のものをあてがうことで解決しますので、敢えて説明はしませんでした。不備を隠していたわけではありません。重大なことですが、解決する問題ですので」
 ここで話が合った。
「そうだね。足せばいいんだ。または別のものを用意するとか」
「そうです」
「納得できました」
「有り難うございます。まさかそこまで見ておられるとは思いませんでした。流石です」
「いやいや」
 さて、肝心の商談だが、これは適当に聞き流し、殆ど聞いていなかったのだ。どうせ何を言い出すかはもう分かっていたので。
「やはり一つで満足を得られる大きさのものにすべきだった」
 これも声には出していない。
 
   了

 


2017年10月30日

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