小説 川崎サイト

 

三本の狼煙

 
「切羽詰まっています」
「そうか」
「早く、ここから逃げないと危ないです」
「まあ、そう慌てなさんな。どんな状態かを先ず把握しないとだめでしょ」
「敵はすぐにやってきます」
「敵」
「そうです」
「誰じゃ」
「分かりませんが多勢でやってきます」
「見たのかね」
「山から狼煙が上がりました」
「しかし、それだけでは分からん。それにどの敵が来たのかも分からんのだろ」
「しかし、差し迫っているのは確か」
「そう慌てることはない」
「一刻も早く、逃げないと」
「もう少し情報が集まるまで待とう」
「しかし、あの狼煙は三本。これは非常事態です。敵襲です」
「以前も三本上がったぞ。あとで間違いだったと分かった」
「はい、しかし、敵は多勢、こちらは対抗できません。逃げるしか手はないのです。その合図が三本の狼煙です。今、逃げれば間に合います」
「数日持つ。そのうち援軍が来る」
「伝令を出してから、間に合うかどうか」
「敵も一気に来ないはず。敵の目的が何かも分からず、どの敵なのかも分からずでは、手の打ちようがない。情報が足りん。もっと冷静になりなさい。落ち着くことじゃ。慌てふためいて動いてもろくなことはない」
「三本の狼煙の意味は一つしかありません。ここは逃げることです」
「相談して決めるので、まあ、待ちなさい」
 その相談が長引いたためか、待ちきれない連中は勝手に逃げ出した。これは違反だ。
 逃げ出すとき、既に敵の大軍がもうそこまで迫り、間一髪で脱出できた。
 しかし、これは違反なのだが、それをとがめる重臣達は既に大軍に飲み込まれ、館もろとも跡形もなく消えていた。
 
   了



2017年11月30日

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