小説 川崎サイト

 

古きを捨て新しきを得る

 
「新たなものを得るには古いものを捨てなくてはなりません。そうでないと新たなことはできません」
「古いものをそのまま残しては駄目ですか」
「その古いものをお使いですか」
「はい、使います」
「じゃ、新しいものはいらないのでは」
「そうです」
「じゃ、簡単でしょ。新たなこと、新しいものは必要ではないということですから」
「いえ、新たなものも欲しいのです」
「両方必要ですか」
「新しいものだけで全てがいけるわけではありませんので」
「では、共存、混成ですな」
「それでじわじわと古いものが消えていったりしますので、何も古いものを捨てる必要はないと思います」
「あ、そう。でも私の主旨は分かりますよね」
「はい、存じております。精神的な切り替えをきっぱりとやった方が流れとしてはいいということでしょ」
「それも一つです。他にもいろいろあります」
「今までのこともしたいし、これからのこともしたいのです」
「矛盾しませんか」
「しません」
「それはどんな方法なのですか。その構造なり流れを聞かせてください」
「そんな大層なことではありません。先ほど言いましたように、古いものはそのうち消えていきますから、わざわざ捨てなくてもかまわないかと」
「それも一理ありますが」
「いえ、自然とそうなりますから、特に何かをする必要はありませんが、新しいものが古いものを殺していくこともあります。それが一寸苦しいところです」
「新たなことが古きを殺す。これですね」
「古いやり方ではやっていけないことがありますから、僕が殺すわけではなく、時代が殺すのだと思っています」
「少し待ってください」
「はい、なんでしょう」
「私が指導しているのに、君の意見の方が詳しい」
「え、普通ですが」
「新たなことをするには古きことを捨てなければいけない。私はそれしか言っていないことに気付いた」
「そうですか。非常にいい意見だと思います。参考になります」
「しかし、詳細は君の方が上だ」
「あまりシンプルではありません」
「そうだね。しかしそちらの方がリアリティーがある。現実的だ」
「いえいえ」
「古きものを捨て去ることで明日が開ける」
「そうですねえ」
「納得できるかね」
「はい」
「じゃ、なぜ古きを捨てないで新しきものを」
「先ほどから言ってますように、新しいものだけで全部は無理ですから、徐々に移行していくことになります。それに古いものを残しておいても、問題はありません。矛盾しません」
「私はシンプルなものが好きだ。だから、古きを捨て新しきを得るのがいい」
「ただの性格の問題でしょ」
「う、うむ」
 
   了


2017年12月4日

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