小説 川崎サイト

 

闇が来る

 
 宮田は冬になると睡眠時間が長くなる。そのため朝、起きるのが遅くなり、いつもの寝る時間になっても、目がまだ冴え、寝る気にならないので、夜更かしとなる。つまり時間がずれてきていた。その状態になると、体調が悪くなり、寝起きがさらに遅くなる。ここまでは特に変わったことではない。日常が崩れるほどのことではなく、一寸ずれ込むだけ。
 宮田は夕方前に買い物へ行き、喫茶店でひと休みしてから帰るのが日課になっていたのだが、時間帯がずれた上に冬至が近いのか日没も早く、今では家を出るとき、既に薄暗くなっている。
 宮田にとり、それは夜が来るのではなく、闇が来ると感じている。明るさだけの問題ではないのだ。
 買い物は自転車で行く。広い目の歩道があるので、そこを走るのだが、毎日その時間に通っていると、いつもすれ違う人達がいる。
 その沿道に工場があり、歩道を横切って入ってくるトラックがある。そのため警備員が立っていることがある。その人とも顔なじみになっている。年取った誘導員ではなく、工場内の警備員なので、まだ若い。彼も宮田が通る時間が徐々に遅くなっていることを感じているかもしれない。暗くなっているためか、顔がよく見えないこともある。
 闇が来るとは、そのことではない。行くとき、わずかながら明るいが、戻るとき、完全に暗くなる。
 行くとき、すれ違う人と戻るときにすれ違う人とは違う。同じ時間帯なら同じ人とすれ違うのだが、時間がずれた関係で、知っている人が減り、新顔が増えてきた。当然その日だけそこを通る人の方が多いのだが。
 戻り道、その新顔の中に闇がいる。顔が闇なのだ。最近この闇とよく出くわしている。時間がさらにずれればもう見ることはないのだが、その歩道を通過するときの時間はおよそ五分。その五分間の内にまだ入り込む。
 闇顔はフードを頭巾のように被っており、前で留めているのだが、そのカバー留めが顎までかかっている。フードというより覆面だ。これだけでも不気味なのだが、顔がベタ。べたべたの顔ではなく、黒く塗りつぶした黒ベタなのだ。これは暗いからそう見えるだけかもしれないが、黒い穴でも開いているのかと思うほど黒が深い。奥があるような。
 それで、これは黒ではなく、闇ではないかと思うようになった。闇は何もない。何もないことさえもない。
 宮田は縁起の悪いものを見てしまったと、いつも後悔しながらも、闇の中にあるはずの目鼻などを何となく見ている。しかし、こんなものを見るようになる状態がいけないと反省。こんな時間に買い物に出るのがいけないのだ。それは時間がずれていることがいけない。生活の乱れ。これが闇を見させるのだ。
 それで、遅くなりすぎると、買い物には行かなくなった。喫茶店へ行くのも日課になっていたが、これも近所の店にした。高いので避けていたのだが。
 あのままあの闇と出合っていると、闇の世界に引き込まれる。そう思わせるだけの怖いものがあったのだが、不規則な生活をしている上、寒いので体調もよくなく、それでそんな気分にさせるのだろう。
 これは宮田からの視点だが、その闇顔から見ると、最近宮田とすれ違わなくなったので、ほっとしているかもしれない。闇とすれ違わなくなったと。
 
   了



2017年12月17日

小説 川崎サイト