小説 川崎サイト

 

宇宙の謎

 
 日はまた昇るが、また沈む。しかし昇っているところや沈んでいるところは実際には見ていないかもしれない。その時間、太陽を見ていないと。
 それでも直接見なくても、起きたときは明るくなり、夕方になると暗くなるので分かる。
 要するに一日が始まり、一日が終わる。そしてまた一日が始まる。その繰り返し。これは日ごとのことで、毎日とも言う。分かり切ったことなので、敢えて言う必要はないが、一日の切り替えは寝ることで区切られる。これは分かりやすい。徹夜でもすれば別だが。
「分かり切ったことをまたくどくどと言い出しましたね、竹田君」
「分かり切ったことの方が実は難しいはずです」
「それは当たっているがね」
「人はなぜ寝るのかなんて、ものすごい問題ですよ」
「確かにそうだけど」
「日はなぜ昇るのか、一日があるのかも」
「はいはい、それは小学生がよく言うことです」
「そうですねえ。その後、言わなくなります」
「そこは謎が深すぎる根本的なことですから」
「はい」
「自分はどうしてここに存在しているのかもそうでしょ。生年月日を見ても、分からない。生まれるということそのものも、なぜそうなったのかも分からない」
「でもある程度分かるでしょ」
「手前までのごちゃごちゃしたことまではね。しかし、その奥になると、宇宙の発生まで行く」
「宇宙はどうして発生したのですか」
「これも手前までは分かるが、なぜ宇宙があるのかが分からない。発生しようと、発生しまいと」
「宇宙って何ですか」
「それだよ竹田君。そこに填まると這い出せなくなるから、辞めておきなさい」
「はい」
「何かヒントはありませんか」
「まだ、言ってるのですか」
「これを最後にします」
「宇宙から宇宙を見ても宇宙は見えません」
「はあ」
「主観になってしまうからです」
「じゃ、自分だけが納得できればいいのですね」
「そうです。でも竹田君、納得するもしないも、それも好みのようなもので、そんなもの知りたくなければ、見もしないでしょ」
「はあ」
「さあ、研究に戻りなさい。今、何を研究しているところでしたか」
「だから、分かり切ったことを探る研究です」
「分かり切ったことなら、もう研究しなくてもいいでしょ」
「分かり切ったことの奥にあるものを」
「はいはい、じゃ、それを続けなさい。答えなど出ませんが、その過程が大事」
「はい」
「さて、昼は何を食べるかだ」
「はあ」
「どうでもいいようで、どうでもよくない」
「あ、研究を変えます」
「どうしてかね」
「どうでもいいものについてを新しいテーマにします」
「簡単に変えられるものだねえ」
「あ、また変えます」
「またかね」
「簡単なものについての研究です。簡単なものほど難しいと言うじゃありませんか」
「好きなようにしなさい」
「好きなものについての研究も悪くないですねえ」
「もう、勝手にしなさい」
「はい、そうしてます」
 
   了




2017年12月20日

小説 川崎サイト