小説 川崎サイト

 

急がば回れ

 
「急がば回れと言うが、回りすぎたようだ」
「はい」
「これは確信犯だな」
「え」
「急ぐ気がないのだ」
「回り込みすぎましたか」
「遠回りしすぎた」
「より」
「どうした」
「より、急がば回れで、いいのではないでしょうか」
「しょうか、しかし程がある」
「はい」
「遠回りしすぎたため、もう過ぎたのかもしれん」
「そうですねえ」
「だから、もう目的は果たしたのじゃ」
「しかし、目的場所には行ってません」
「その目的地から先にある目的地に向かっている」
「方角は合っていますか」
「分からんが」
「大丈夫ですか」
「見当は付いておる」
「しかし、引き返して目的地へ戻りましょう」
「いや、あの目的地は、とりあえずの場所でな。まずそこへ出て、さらに先へ進む。だから本当の目的地じゃないのじゃよ」
「では本当の目的は何処ですか」
「最初の目的地の先じゃ。だからその見当で進んでおる」
「しかし、あそこは集合場所です。まずはそこに集まって」
「ああ、遅れたことにすればいい」
「じゃ、向かいましょう」
「急ぐことはない。急がば回れじゃ」
「また回りますか。一周して元の場所に戻ってしまいますよ」
「出発点にか」
「そうです」
「それもいい」
「はあ」
「本当の目的地は帰還すること。戻ってくるのが最終目的。だから間違っていない」
「しかし、ウロウロしているだけで、何もしていませんよ。仲間の部隊は戦っていると思います」
「遊軍ということにしよう」
「そんな命は受けていません」
「今頃どうなっておるか分からん」
「戦いですか」
「そうだ。負けて敗走中かもしれん。だったら、目的地は出発点になるので、合っておる」
「でも撤退中の部隊と合流するのは危険です。敵は今だとばかり挑んできます。弱っているところを狙って」
「だから、回り込もう」
「はい」
「あれは何だ」
「何処です」
「あそこに幕や幟が」
「あの馬印は敵の総大将」
「逃げるぞ」
「いえいえ、敵陣の後ろに付いたようです。今襲えば、奇襲」
「おお。そうじゃな」
 仲間は総崩れし、それを敵軍が追撃していた。そのため、敵の本陣はガラガラ。
 急がば回れは当たっていたようで、一気に襲い、残っていた敵の大将を討ち取った。
 うろうろもしてみるものだ。
 
   了



2017年12月27日

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