小説 川崎サイト

 

慣れ親しむ

 
「取引会社を変えるのですか」
「何か粗相でも」
「お互いにない」
「ではどうして」
「慣れ親しみすぎた。それはいいのだが、重くなった」
「重用されているからでしょ」
「その気になればいつでも変えられることを見せたいわけじゃない」
「じゃ、次は何処と」
「昔からある会社だがね。かなり大きい。大きすぎて嫌だった。しかしサービスはいいし、時代に合わせ続けておる。今は主流で大メジャーだ。それだけのことはある。大きなグールプの代表でもあるのでね」
「しかし、我々とは水が合いません」
「寄らば大樹の影」
「はい、それでは今までのシステムやその他全て入れ換える必要があります」
「古いシステムは捨ててもいい」
「今も使っていますよ。乗り換えると、一からまた」
「似たようなものだ」
「しかし実際はどうなのですか」
「実際?」
「本当のところです」
「面倒になった」
「何がですか」
「古い付き合いがね。しがらみができすぎた。悪いことじゃないよ。いずれも良いことなんだ」
「それだけのことですか。反発されませんか」
「それがあるから切りたいんだ」
「え」
「今度乗り換えたい相手はドライでねえ。切っても、あ、そう程度でいい。取引先が多いので、そんなものだよ」
「しかし、どう説明しますか。落ち度もないし」
「慣れ親しみすぎたのが落ち度だ」
「はあ」
「縁ができすぎた。これが重い」
「では、どう説明します」
「何か作れ」
「落ち度もないのに」
「適当に作れ」
「あ、はい」
 そう決めて、実行した。
 ところが、一番大事な取引先が連動するように消えてしまった。
 それで社長はガッカリした。
 その理由は皮肉にも、同じだった。
 
   了


2018年1月8日

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