小説 川崎サイト



金魚の糞

川崎ゆきお



「納屋に怪人のアジトがあるんですよ」
 防犯パトロールボランティアの奥田が言う。
 会長の目が何度も瞬いた。白くて長い眉が風もないのになびいた。
「どういうことですか?」
「どうも、こうもも、ありゃしない。納屋に巣くってるんだ、怪人が」
 この地区はまだ農地が残る静かな住宅地だった。
「納屋って、何処の?」
「物置ですよ」
「だから、何処の?」
「田圃の」
「それが、どうして怪人のアジトなんです?」
「放置されとる納屋があるだろ。そこに入り込んでおるのですよ」
「ああ、小屋はありますねえ。そういえば」
「僕は心配なので、見て回ってるんだ。あそこに潜んでいるとみた」
「参考にしましょう」
「参考じゃ遅いんだ。今のうちに襲撃しないと」
「奥田さん」
「何です。会長」
「目撃されたのですか」
「何をだ?」
「不審者です」
「怪人はそんなヘマはしないですよ。身を隠すプロなんだから」
「じゃあ、どうして農具小屋に怪人がいると分かるんです?」
「それは探偵のカンだ」
「探偵?」
「怪人を追うのが探偵の役目だ」
「奥田さん。私達は防犯パトロールです。探偵じゃないですよ」
「僕から見れば、立派な探偵だ」
「お一人でパトロールに出るのは控えてもらえませんか」
「そこなんだ。あんな金魚の糞のような行列じゃ、怪人を捕獲できんよ」
「奥田さん、それは少し話しが違うと……」
「怪人は納屋をアジトにし、町民を襲う計画を着々と進めとるんです。一日も早く、すべての納屋を調査すべきだ」
 会長は無視するとともに、奥田をボランティアから外した。
 しかし、翌日も奥田は納屋を見て回った。その姿は、どう見ても不審者のそれだった。
 会長は奥田を不審者としてマークした。
 奥田はメンバーから外されたが、自主防衛団を一人で結成し、納屋の見回りを続けた。
 その後ろから防犯パトロールが金魚の糞のようにつきまとった。
 
   了
 
 



          2007年5月15日
 

 

 

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