命枯れるまで
堀田は命枯れるまで生涯現役で仕事をやろうと思っていたのだが、もの凄く早い目にやめてしまった。
まだ体力的にも問題はなかったが、若い頃のような精気や力強さがなくなりかけていた。まだまだ続けることも当然可能だが、身を削ってまでやるようなことではなかった。それだけの見返りがあるのだが、マイナス効果かもしれないし、堀田にとり、最大の見返りは収入だった。それをやり続けないと食べていけない。
しかし、経済面が解決したため、もう仕事をしなくても食べていけるようになった。
仕事も減っており、自分で仕事を作らなければいけない状態になっていたので、これは需要がないことが丸わかりで、そのこともあって、見切りをつけた。
仕事仲間でやめてしまった人もいるし、商売替えした人もいるが、多くは現役バリバリでまだやっている。さらにその先輩達も現役なのだが、その姿を見ていると、早く引いた方が身のためではないかと思うようになった。
逆にいいときにやめてしまった人もいる。全盛期にやめたのだろう。少し早すぎるが、いい印象を残して去っている。そして二度と戻っては来なかったので、ずっといいときの印象で生きている。
年代を重ねすぎると、逆効果になるようで、もうその年でやるのはみっともないとか、惨めとか、哀れにさえ思えるようで、これは堀田の感覚なので、一般性はない。自分がそう感じるのだから、そういう人にはなりたくないようだ。ただやり続けないと食べていけないのなら、仕方がない。
堀田はドロップアウトしたのだが、その仲間内から見ての話で、本来やりたかったことに向かえることになる。その中身は実は何もなく、何もしたくなかったのだ。
また堀田の引退を寂しがる人もなく、復帰を願う人もいなかった。これは少しショックだったが、自分の実力から見て、当然だろう。
命など何もしなくても削れていく。無理に削る必要はないだろう。
「是非戻ってきて欲しい」
と、ある日妙な男が現れた。これは有り得ない話なので、適当に聞き流していたが、結構な収入になるらしい。
「裏ですか」
「はい」
「そうでしょうねえ」
「裏の仕事ならいくらでもあります。あなたのレベルなら簡単にできます」
「何をすればいいのですか」
「まあ、身代わりのようなものです」
「身代わり」
「なりすましてください」
「代役ですか」
「まあ、そんなものです」
文筆業でいえばゴーストライターのようなものだろう。
「あなたの名は一切伏せます。また伏せないと駄目ですが、あなたもこのことは伏せ続けてください。墓場まで」
堀田は仕事に戻る気はなかったのだが、何となくやりがいがあるような気がした。妙な性分だ。戻るのはもう嫌だったが、そういう形でならいけそうだった。それは命を削ってまでやるようなことではなかったためでもある。
ある日、ものすごい新人が現れた。
了
2018年1月12日