小説 川崎サイト

 

お座式

 
「これには参りました」
「お参りでも」
「いや、呆れたというか、有り得ないことを言い出すので、長三さんには参りました」
「どう参られたのですかな」
「舞っていると」
「舞う」
「はい」
「舞うぐらいよろしいでしょ」
「長三さんじゃなく、人形がです」
「舞っている人形ですかな」
「九州へ旅したとき、買ったものらしいのです。土産物屋で。しかも相場より安かったそうで、これは掘り出し物だと思ったようです」
「その長三さんがですね」
「古道具屋じゃなく、新品しか扱っていない土産物屋です。何やら訳あり品となっていたようですが、何処がどう違うのかは分からないと」
「博多人形ですか」
「さあ、そうだと思いますが、芸者です」
「買われたのは何処ですか。福岡ですか」
「いえ、熊本だとか」
「はい」
「槍を構えた加藤清正を買おうとしていたのですが、その横に色っぽい芸者を見付けたので、そちらにしたようです。色白で綺麗な肌で……」
「持ち帰るのが大変でしょ」
「送ってもらったとか。それを私も見たことがあります。あれはもう何十年も前です。長三さんもまだまだ元気な頃でした」
「舞い姿の博多人形。それに参っておられるのですかな」
「そんな趣味は長三さんにはありません。小棚の上に硝子ケースのまま飾ってあるだけです。参っているのは私です。その芸者が出てきて踊り出すというので」
「見ましたか」
「長三さんの話です。この話には参りました」
「どんな感じで舞っているのですかな」
「座敷に降りてきて、きっちり座り、頭を下げ、そのあと、優雅に踊り出すとか。人形ですから小さいですよ。だから扇も小さい。踊りといっても腕が主で、腰を少し沈めたりする程度とか。しかし結構足は動かします。しゃなりしゃなしゃなと歩き出したり、くるっと回ったり」
「全て長三さんの話ですな」
「そうです。聞いた話です」
「それはお座式でしょ」
「はあ」
「正確にはお座式という妖怪です」
「そうなんですか」
「お座敷に呼ばれた芸者さんでしょ」
「誰が呼んだのですか」
「長三さんしかいないでしょ」
「そうですねえ。しかしとんでもないことを言い出すので参りましたよ。どうすればよろしいでしょ、妖怪博士」
「踊らせておけばいいでしょ」
「しかし」
「何か、問題でもありますかな。これは無害です。その博多人形もどき、お座敷に呼ばれて舞を披露しているだけ」
「じゃ、熊本で売られていた博多人形が妖怪だったと」
「人形そのものは妖怪じゃないですよ。その中にお座式が入るため、動き出すのです」
「怖いものが入っているのですねえ」
「だから、訳ありだったのでしょ」
「それで、お座式とは何でしょう」
「動力源の一種でしょ。お座式とは、式神の式と同じ字をあてていますが、動かし方の一種です。アナログ式か、デジタル式かのような違いがあるだけです。今回はオザ式でしょ」
「じゃ、そのままでいいと」
「ところで、その人形が踊っている部屋は何畳ですかな」
「八畳です」
「そりゃ博多さんにすれば大広間」
「先生。感想はそれだけですか」
「あ、はい」
 
   了


 


2018年1月22日

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