小説 川崎サイト

 

何かが来る

 
「何かありましたか」
「ありません」
「でも心配されている」
「はい、不安です」
「でも何もないのでしょ」
「ありません。だから逆に怖いのです」
「何もなければ、何もないでしょ」
「いや、何かあった方が分かりやすい」
「ほう」
「何かじゃなく、具体的になりますから、構え方も工夫できます」
「でも今は何もないわけでしょ」
「だから不気味なのです。いつも何かあるので」
「じゃ、もう収まったのでしょ」
「そんなはずはありません」
「まあ、そういうものが来たときに心配すればよろしい」
「何が来るのでしょうねえ」
「私には分かりません」
「静なので不気味です。きっと溜め込んでいるのかと」
「いや、もうこの先も何もないんじゃありませんか」
「そうですねえ。ここんところずっと静ですから、このままもう来ないかもしれませんが」
「取り越し苦労です」
「以前、もっと長い間来なかったことがありましてね。そのあと、ものすごいのが来ました。だから間が開く方が怖いのです」
「来るのを待っているみたいですねえ」
「はい、早く来てくれた方がどれだけ落ち着くか」
「調べられませんか」
「無理です」
「前回来たときはどうでした」
「とんでもないものが来ました。予想だにしていないようなことが。決まったものが来るのなら、心構えもできるのですが、違う出方をしてきたのです。これには流石に慌てました。しかし、そう来たかということで、来たので、少しほっとしましたよ。これでやるべきことが決まったと」
「じゃ、今回もその方法でやればいいのですよ」
「この待ち時間が嫌でしてねえ」
「来るか来ないかも分からないわけでしょ」
「そうです。このままもう来ないことも考えられますが、それは私の単なる希望でしかありませんから」
「悪いことが来ると嫌なのは分かりますが」
「え」
「どうかしましたか」
「良いことが来るのです。喜ばしいことが」
「だったら、あなた、そんな心配など」
「良いことや楽しいことが来ると、疲れますから」
「あらま」
 
   了


2018年1月28日

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