小説 川崎サイト

 

環状都市


「丸井町へ行かれましたか」
「丸井町」
「丸い町です」
「そのままですねえ。で、何があるのですか」
「特に変わったことはありませんが、丸いだけです」
「丸いとは?」
「町の真ん中がありましてね。そこから同心円状に道が重なってあるのです」
「ちょとイメージがわきませんが」
「道が丸いのです」
「カーブですね」
「だから輪のような道が、何本もあるのです」
「土星の輪のような」
「そうです。その輪が幾重にもあります。一番端の外周はかなり離れたところにあります」
「妙な構造ですねえ。何のために」
「城のようなものではないかと言われています」
「もしそうなら有名でしょ」
「しかし規模が小さいですし、本当はそんなにしっかりとした円状ではなく、角張っています。どの道も狭いです。そして中心部まで真っ直ぐに行ける道はありません」
「住宅地図で見ればよく分かるはずですが」
「その気になって見れば、丸く取り囲んでいることが分かりますが、ちらっと見たのでは分からない。その後、変わりましたからね」
「それで、中心部には何があるのですか」
「お寺です」
「城じゃなく」
「城としても機能していたようです」
「じゃ、お寺が本丸」
「そうです。だから最初の円の道は二の丸、次が三の丸、次が四の丸。次が五の丸ということでしょうなあ」
「五の丸で終わりですか」
「今はかなり崩れていますがね。途切れたり、また工場などが建ち、跡形もありません」
「歴史は」
「室町時代です」
「お寺は」
「この町の中心でしょうねえ。農家じゃなく町屋が多い場所だったとか」
「寺領とか」
「それに近いです。そこの寺は大きくて、よく一揆を起こしていた宗派に属していますが、領主はいません」
「じゃ、昔の堺のようなものですか」
「それに近いです」
「門前町とはまた違うのですね」
「寺を幾重にも囲み、まるで守っているような地割りですからね」
「それが丸井町ですか」
「そうです。行ってみられればいい。円状は崩れていますし、本当は直線が多いですがカクカクトと回り込んでいますので、分かりにくいですが」
「ありがとうございます。行ってみます」
 そういう寺内町が、まだ残っているのだろう。
 
   了


2018年1月30日

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