小説 川崎サイト

 

同じでない日々


「日々同じというのでは何なので、変えてみました」
「えっ、何が何なのですか」
「同じことの繰り返しでは片寄ってしまいます」
「あ、はい」
「先ずは立ち回り先を変える。これは毎日行っている場所ですがね、そこしかなければ変えようがありませんが、その場合は行く道を変えます。立ち回り先も、変えられるものがあるのなら、そちらへ一日置きに変えます。これで何通りになりますか」
「数えていません」
「場所を変えることで一回。行く道を変えることで、同じ場所でも二回。行く道筋が複数あればもっと増えますし、行く場所も増えれば、ものすごい組み合わせになります。これで同じ場所へ同じように日々行っているとは言えなくなりましょう」
「ほう」
「だから日々、同じことをしていない」
「そうですねえ」
「茶碗は常に複数、箸も複数用意しておきます。茶碗など一つあれば充分ですが、二つあると交互に使える。だから毎日同じ茶碗でご飯を食べているわけじゃない。そして箸もそうです。さらにご飯もそうですよ。流石に複数の米びつに別の銘柄を入れて交互に毎日炊くわけにはいきませんが、なくなれば、前のとは違う銘柄にする」
「ほう」
「私は昼はパンですがね。毎日サンドイッチを食べていました。作るのが面倒だし、テレビを見ながらかじれますからね。これも変える。おにぎりでもいいし、カップラーメでもいい。しかし続けては駄目。片寄るからです」
「出掛けるときの靴や鞄もですか」
「ご名答。これはかなり玄人です。しかし、それだけの数を揃えられないと思いますので、これも交互でいいのです。二つ用意すればいい。即ち二つです。三つが難しい場合は二つ。そして交互」
「はい」
「靴は古くなると買うでしょ。しかし、今まで履いていた靴なので、捨てるほどではない。破れておれば別ですがね。だから新しい靴を買えば、都合二つになる。靴は他にもありますよ。しかし服装と合わない靴は駄目でしょ。葬式専用とかね。普段履く靴、これも交互に履けるでしょ。一足しかないのなら別ですが、いずれ買うはず。一生同じ靴を履いているわけじゃない」
「靴下もそうですか」
「私は靴下は毎日履き替えません。同じのをずっと履いていました」
「僕もそうです。汚れて底が硬くなって、足袋のようになるまで履いたりして」
「余計なことを言わなくてもよろしい」
「はい」
「なぜそのようなことをするか」
「靴下ですか」
「そうじゃなく、小まめに変えるかです」
「片寄らないようにでしょ」
「それもありますし、それがまあ目的なのですが、日々同じことをやっていると言わせないためです」
「誰から」
「自分自身からです」
「はあ」
「しかし、実際の意味は同じでしょ」
「やっていることは同じでも、やり方が違う。ここが大事なのです」
「しかし、同じことをやっているのでしょ」
「それはまあ、そうだが」
「じゃ、同じような日々を送られているわけでしょ」
「だから、細かいところが違う」
「僅かな差でしょ」
「その差が大事なのだ」
「はい、お好きなように」
 
   了



2018年2月9日

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