小説 川崎サイト

 

新製品


 一つのことが新しくなると、他のことも新しくなる。これは時代が進めば当然起こることで、百年前のことを今もそのままやっている人は少ないだろう。ある箇所だけに限れば二千年前と同じことをやっていることもあるが、それはより大きいことか、より小さいことだろう。時代とともに新しくなっていくとすればその中間箇所。これがほとんどを占めている。
 変わらないと何ともならないこともあり、また変える必要はそれほどないのに、新しいものに手を出すこともある。これは能動的。積極的に自分でやるわけだ。
 その場合、一つを新しくすると、他のことも新しいものに変えたくなる。変える必要はないのだが、気分的にそう感じるのだろう。これはバランスが悪いとか、統一感がないとかで、新しいものに全部揃えてしまう。
 新しいものへの要求は、今より快適になるときは、それを楽しむためだけの行為に近い。必要性は統一感とか、そういったものが縄になり、引っ張られる。
 人の動きというのは太古とそれほど変わっていない。感情もそうだ。それらが時代により置き換えられたり、すり替えられたりする。また、まとめられたり、逆に独立させたりとかも。
 その中身ではなく、そういう行為があるということでは太古と今も同じだ。より大きなものは変わっていない。そしてより小さなものも。
「要するに新製品が出たので、それを買うべきかどうかの話ですね」
「今までとは違うわけじゃないけどね。これは思っていたものが出た。理想的だ。新しけりゃいいというものじゃないよ。私が思っている新しさ、それに今回遭遇した」
「でも、今のでもやっていけるのでしょ」
「不満が多い。それらを払拭してくれる商品が出たんだ」
「じゃ、古いのはどうするのです」
「君にあげるよ」
「いくらか払いますよ」
「それは好きにしたまえ。もう使わないので」
 その後しばらくして。
「君に売ったあれねえ、買い戻したいのだけど、いいかね」
「いいですよ。安く譲り受けましたが、使っていないので」
「使っていない?」
「はい」
「やはり、あれじゃ時代遅れだろ。私と同じ理由で使う気が起こらないんだろ」
「そうじゃなく、使う用事がまだないもので」
「あ、そう。じゃ、買い戻すよ」
「いいですよ。それより、どうしました。張り切って新製品を買ったのでしょ。だめだったのですか」
「聞くでない」
「不満だったのですね」
「そうじゃないが、思っていたものとは違っていた」
「じゃ、今は使っていないのですか」
「そうだ。こんなもの使えるか」
「怒ってますねえ。じゃ、僕が買い取りますよ」
「そうかい。じゃ、それも何だから、交換しよう」
「はい」
 それからしばらくして。
「君と交換したあれねえ」
「新製品をもらい受けて大喜びです」
「使っているかね」
「いいえ、まだ用事がないので」
「交換しよう」
「え、でもあれは不満だったのでしょ。思っていた新製品じゃなかったと言ってましたよ」
「誤解だった。よく説明書を読まなかったんだ」
「あ、そうなんですか」
「また、交換しよう」
「いいですよ。どうせ使ってませんから。それに僕が持っているものより、新しいですし。それ以前に使う用がないので、何も困りませんから」
「よし、成立した」
 それからしばらくして。
「交換しよう」
「またですか」
「取扱説明書をさらに読むと、違っていた」
「そうなんですか」
「これで最後だ」
 それからしばらくして。
「他社から新製品が出たんだ。今のはいらない。君に譲る。もうお金はいらない」
「あのう」
「何かね」
「忙しいです」
「何が」
「重いのを持って、往復するのが」
「いい運動になるじゃないか」
「そうですがね。今度は決まりですねえ」
「それは届いてからだ」
「はあ」
 
   了




2018年2月13日

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