小説 川崎サイト

 

病院前の喫茶店


 まだ春が来たわけではないが、暖かい昼間。食後の散歩で立ち寄る喫茶店が休みなので、木下は別のコースへ向かうことにした。
 その喫茶店は年中無休なのだが、モール内にあり、そこがメンテナンス関係で年に二度ほど全館休館になる。木下は毎日そこへ寄っているのだが、結構遠い。自転車による散歩なので、そんなものだ。これが徒歩散歩なら、そこまで行かない。
 モールのある方角とは逆側へ行くことにしたのだが、その方面はまだ田畑が残っており、その先はすぐに大きな川。橋を渡れば別の市街地に出られるのだが、その先は山。だからすぐに行き止まりになるような場所なので、滅多にそちらへは行かない。つまりどんどん田舎になるためだ。
 暖かいとはいえ、まだ冬。春を思わせるような畑の匂いはまだしないし、冬の終わりから咲く小さな雑草の紫の花も、まだまだ先なのか、畦の彩りは少ない。しかし、一足先に春を運んでくるのか、野鳥が来ている。雀より大きいが、色が少し地味なタイプと、雀よりも小さいがレンガ色の小鳥。これは真冬には来ない。それが来ていることは、春が近いのだろう。梅の花が咲き始める頃だ。
 そういった畑を見ながら、川のある方角へと自転車で向かう。
 コンビニができている。この辺りも宅地化が進み、人が増えたので、客もいるのだろう。
 コンビニができることは知っていた。しかし場所が分からなかった。家のすぐ前にあるコンビとオーナーが同じはず。開店予告と立ち上げスタッフ募集の貼り紙があったが、番地だけでは何処に建つのかまでは分からなかった。
 それで、ああここだったのかと思いながら、その前を通過する。
 ここのオーナーは愛想がいい。年のいったバイトだと思っていたのだが、オーナーだと知ったとき、これは意外というより、こういう人がオーナーなので流行るのだろうと思い直した。愛想がよければ流行るわけではないが、客が多い店。だから儲かったので、支店のようなものをすぐ近くに出したのだろう。どちらも大きい目の道に面している。違う道筋なので、重ならないので、いいのだろう。そういうのは考え抜いた上で場所を決めているはず。
 そのコンビニが建つ前、何があったのかまでは覚えていない。一戸建ての小さな家では、駐車場付きのコンビニを建てる広さはないはずなので、そこそこ大きな建物があったはず。田んぼではなかった程度の記憶しかない。
 その道をまっすぐ行くと、すぐに橋が見える。木下は渡る気がないので、左側の小径へ入る。昔、農道だったような細い道だが、これが左側にあるお隣の旧村と繋がっているのは、何度か通ったことがあるので、覚えている。
 コンビニができるほど住宅地が多くなっていた。
 さて、モール内の喫茶店の代わりに、何処に入るかだが、二軒ほど知っている店がある。その農道を進むとバス道に出る。そこに大きな病院がある。総合病院だ。昔は田んぼに囲まれ、四階建てなので、遠くから見ることもできたが、今は近付かないと分からない。その病院前に処方箋専門の薬局が二つほどあり、喫茶店も二つある。
 木下の家から比較的近いところにあるのだが、病院前というのが気になっていた。
 しかし、ここまで来たのだから、この二軒のどちらかに入らないと、それを外すと、橋を渡らなければ、もう喫茶店はない。
 そして、広くてゆったり目の大きい店に入ったのだが、満席。客層は分からない。もう一つの店も満席。カウンターが一つ空いているが、間隔が狭すぎる。
 よく考えると、ランチタイムで一番客が多い時間帯。
 それで喫茶店に寄るのは諦め、別ルートで家まで戻る。その途中、自販機で缶コーヒーを買い、上着のポケットに入れた。
 小さな湯たんぽがポケットに入っているようで、妙に暖かい。
 木下は年に二度、昼食後の散歩コースを変える日がある。今年はこれが一回目。二回目は半年後だろう。
 
   了
 
 


2018年2月23日

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