小説 川崎サイト

 

修羅の門


 仙人渓谷に修羅の門がある。そこは修験者の道場のようなものだが、箱庭のような場所で、巨木や巨石、絶壁、滝や洞窟などが集まっている。山寺の奥の院のさらに奥にあるのだが、寺の庭のようなもの。そのため、気楽に入り込める。すぐそこにあるのだから。
 山寺だが創設は古く、とある貴族が供養のために建てたものだが、一族の菩提寺ではない。余程この貴族、悪いことでもしたのか、罪でも犯したのだろう。敵を弔うために建てたようだが、今は由来だけが残っている。建立者の貴族も没落し、建物だけが残り、大きな寺が、その後、ここを引き受けた。オーナーの貴族がいないし檀家もいないし、山中にあるため、そのままでは朽ち果てるだけ。
 大寺が引き受けたのは、研修所的に使うため。修行のためだ。場所として丁度いい。
 そして奥の院の向こう側が行場として使えることが分かり、この宗派の新人は、ここで研修のようなものを受けることになる。当然まだ若い総力の卵達。
 その大寺も時勢に合わなくなったのか、いつの間にか消え、別の宗派の末寺になったが、まあ、支店のようなもの。しかし里が遠すぎて何ともならず、別院と名を改め、年取った高僧達の別荘のようなものした。今で言えば、老人ホームのようなものだ。
 その中の老僧が例の行場に手を加え、色々なものを盛りだした。しかし行場を復活させたわけではなく、箱庭のようなものを作り出したのだ。祠や石仏、磨崖仏、それだけではなく、神々まで祭りだした。ただの庭いじりに近いのだが、本物の滝もあるし、洞窟もあり、巨石も多く、絶壁に飛び出した鬼の腰掛けまである。
 やがて、その別院も火災で燃えてしまった。その後は廃寺になり、今は残っていない。しかし、奥の院裏の渓谷はそのまま。
 修羅の門も、別院時代にできたものだろう。自然を利用したアトラクションのようなもので、門だけがあり、そこを潜ると渓谷から出てしまう。つまり、修験道場への入り口ではなく、出口に向かって門があるのだが、石を積み上げて、ある程度の高さにしたものが二本あるだけ。流石に石柱とまではいかない。そこに修羅の門と書かれている。
 要するにここから先は、別院への戻り道なのだが、その門が修羅の門。娑婆への入り口でもある。
 
   了
 
 


2018年3月16日

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