小説 川崎サイト

 

漫画家志望2


「今晩は今晩は」
「はい」
「遅か時間にすまんとです」
「夜中の二時ですよ」
「まだ起きとられると思いまして」
「まあ、それはいいですが、何か」
「まんぐあの原稿を持って来たとです」
「えっ」
「先生ば、何か画いて持って来いと言いなさったので無理して画いて来ましたばい」
「まあ、いいから玄関先で大きな声じゃ困るから、中に入りなさい」
「おんじゃまします」
「それで、何でした」
「まんぐわの原稿ですばい」
「そんなこと言ったかなあ」
「言いましたばい。まんぐあ家としてやっていける才能があっかどうか、見定めたいと」
「近いことを言ったかもしれませんねえ。まあいいです。見せてください」
「これですばい」
「だから、見せてください」
「見せとるとです」
「これじゃなく、画いたもの」
「これが、画いたものですたい」
「どこに」
「ここ」
「これは、何ですか」
「だから、まんぐわです」
「間違えて持ってきたのですね」
「違うばい」
「そう怒らなくても」
「嫌なことを無理して画いたとです」
「裏向けじゃないのですか」
「表ですばい」
「仕事が溜まっているもので」
「毎晩徹夜ですか」
「そうじゃないですが、忙しいので」
「あのう」
「何ですか」
「感想とか」
「何の」
「わしが画いたまんぐわの才を見て欲しいたい」
「見たからもういいです」
「先生の真似ばして画きました」
「僕はこんな絵でしたか」
「はい」
「模写というのがありましてね。まずは模写から始めるのがいいのです」
「はい、始めました。これがそうです」
「始めたのはよろしいのですが、これじゃ先が随分長いような気がします」
「そげん長か模写ば続けんといかんとですか」
「それよりも、真似て画いて下さい」
「真似ましたけん」
「うん、そうなんですがね」
「もっとしっかりと見てつかわっさい」
「ああ、思ったより繊細なんですね」
「あ、褒められたとですね」
「よく絵が見えないのは鉛筆が薄いためでしょ。それに細すぎます」
「6Hです」
「そりゃ薄くて硬いでしょ。だから、紙が切れていますよ」
「力んだけん、力が入ったとです。力作ばい」
「彫刻家がいいんじゃないですか」
「まんぐわ家になりたか」
「まあ、そういうことです」
「それで、才能は如何なものでしょう」
「これじゃ如何なものか、です」
「褒められたとですか。じゃ、頑張って修行するたい。よろしゅうおたのもうします」
「あ、そう、ちょと忙しいからね。今度は模写じゃなく、いや、これは模写じゃなかったけど、模写のつもりで画くのではなく、今度はオリジナルを画いて持って来て下さい」
「はい、喜んで」
「今夜は」
「泊まるところはあるとです」
「あ、そう、それやいい」
「じゃ、また来るとです」
「遅いからもっと声を落として」
「元気が出ましたばい。じゃ、今夜これでおじゃましますたいの」
「はい」
 
   了




2018年3月21日

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