小説 川崎サイト

 

徒歩距離にある喫茶店


 立花は夕方前に行く喫茶店は雨だと近所に変更している。いつもの喫茶店が遠いためだ。近所の喫茶店は徒歩距離と自転車距離の二店。徒歩距離の店は個人喫茶。一人でやっている。
 春の雨なので、大したことはないのだが、徒歩距離にする。本当は自転車距離の店の方に多く行っている。
 立花は徒歩距離の方が楽だと思い、店の前まで来たが、ドアの前に何か置いてある。シャッターは閉まっていない。店内の灯りも消えていない。営業中なのにドア前に障害物。ドアは手前に引くタイプ。しかし障害物があるので途中でぶつかり、開ききれない。障害物はブロック程度の大きさなので、簡単に手で動かせる。だからこれでは入って来られないようにしているのではなく、入りにくくしている程度。以前は障害物はなかったが鍵が掛かっていてドアは開かなかった。ドアを引く前に障害物があるので、それで分かるだろうということだろうか。要するに休憩。閉店時間までは僅か。だから閉店してもかまわないのに、中途半端な状態で開けながら閉めている。これは買い物に出たのだろう。以前にもあった。
 さらに喫茶店の行燈が道路際にあるが、その点滅ランプが消えている。これが一番の合図。目立つように点滅しているのだが、そのスイッチを切っている。閉店したときは行燈も下げる。
 歩いてここまで来たので、立花はその先にあるもう一店へ行くためには戻って自転車を出して、となると面倒になる。それで自転車距離のところを歩いて行った。靴は濡れ、靴下まで濡れるし、鞄は防水性のない布なので、これも濡れた。傘を差していても自転車距離なので長い目を歩かないといけない。
 自転車距離の店はファスト系だが高い。しかし正月以外は年中無休で遅くまでやっている。だから閉まっているということはない。
 自転車距離の喫茶店なので歩いて行ったことはない。しかし、思ったよりも近い。
 道は店の裏側から脇に出るため、駐車場が見える。そこで気付いたかもしれないが、そのときはまだ。傘で前方が欠けているためだろう。傘を上げてまで見るようなものでもないので、そのまま喫茶店の横に回り込んだ。建物には複数の窓がある。それも見ていなかった。
 そしてドアを見る前に、灯りがないことから、閉まっていることが分かった。すぐ横の駐車場には一台も止まっていない。
 ドアを見ると臨時休業となっている。正月以外休まないはずなので、何かあったのだろう。
 徒労に終わるとはこのことだとガッカリしながら元来た道を引き返した。そして家の近くに来たとき、あの喫茶店が見えた。行燈の上が点滅している。主人が戻ったのだろう。自転車も止まっている。主人のものだ。
 一番近い徒歩距離の喫茶店なのにもの凄く遠回りしたことになる。しかも雨の中歩いたためか、もう靴下まで濡れ、ぬるっとしている。
 そして気を取り直して喫茶店に近付くと、今まで点滅していた灯りが消え、そして行燈の日も消えた。
 既に閉店時間になっていたのだ。
 
   了
 
 


2018年4月10日

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