小説 川崎サイト



アイティー時代

川崎ゆきお



「ぼんやりしている時ほどいい知恵が出る。馬鹿は滅びる」
「お前は何やってたんだった?」
「アイティー関係だ」
 同窓会の三次会で飲めなく歌えない二人は喫茶店へ移動していた。
「その知恵、出すのに、ぼんやりがいいのか?」
「虚心になった時、いいアイデアが浮かぶんだ」
「アイデアか。そんなの必要なのか」
「人と同じことやってちゃ負けるさ」
「俺は同じ事してるなあ」
「業種が違うからだよ」
「でも、仕事がなくなってるなあ。地場産業はどこもよくないよ。廃業だわさ」
「だから、人と同じことじゃだめなんだ」
「どうすればいいんだよ」
「下駄はなあ……考えたことないけど」
「下駄は下駄だろ。下駄以外のを作れと言うのか?」
「ネットで売るべし」
「一杯きてるよ」
「何が一杯? 注文がかい。もうやってるの?」
「営業で」
「何の?」
「ネット屋のセールスマンだよ」
「分かった。ホームページ作りましょうとか、ネットショップ開きましょ……とかの営業か」
「電話も多いし、直接来る奴もいるぜよ」
「アイティー時代だからね」
「下駄なんて売れないだろ」
「そうとも限らないさ。アイデア次第だよ。だから知恵が必要なのさ」
「お前、下駄履くか?」
「履かない、持ってないし」
「俺も履かない。もういらないんだよ」
「旅館とかにあるだろ。寿司屋の大将とか。それに行事とかで」
「それも年々減ってぜよ。この町で残ってるのうちだけだ」
「下駄はいいかもしれんなあ」
「よくないよ」
「女の子向けの派手なの作れないか? 舞子さんがはいてるような背の高い。それで音が煩いやつ」
「それは、他でやってるよ」
「あるのか」
「それより、お前は何やってるんだ?」
「僕はアイティーコンサルタントだ」
「似たような人、営業にくるぜよ」
「そっか。だから知恵が必要なんだ。生き抜くためには」
「俺はこつこつ下駄作ってりゃ文句ないよ」
「じり貧なんだろ。相談に乗ろうか?」
「じゃあ、この下駄預けるよ。新作の男下駄だ。売ってくれよ。お前に卸すよ。安くしとく」
「同窓会に、こんなもの持ってきてたのか」
「どうせ商談会じゃないか」
 
   了
 
 



          2007年5月27日
 

 

 

小説 川崎サイト