小説 川崎サイト

 

取るに足らぬ


「取るに足らぬ者です」
「それが自己紹介ですかな」
「つまらん人間です」
「そんな者がどうしてここに」
「はい」
「はいじゃないでしょ。忙しいのですから役立つ人材を探しています。あなたの相手にはなってられませんから、どうぞお引き取りを」
「面接に来たのですが」
「だから、募集要領をよく読まなかったのでしょ。取るに足らぬような人材など取りません」
「はい、しかし」
「何ですか」
「はい」
「時間がありません。次の人が待ってますから」
「取るに足りん人間でも……」
「人間でも、何です」
「はい」
「もったい付けますねえ」
「いえ」
「履歴書を拝見しましたところ、国立大学を首席で卒業していますねえ」
「国立市の大学ではありません」
「いや、何処の大学でも主席で卒業なら、これは凄いことですよ」
「はい」
「それと学生時代に数千人規模のサークルを率いるリーダーとあります。これも凄いじゃありませんか」
「ネットの会員ですから、人数だけです」
「だから、取るに足りない人間じゃないわけでしょ」
「あ、はい」
「もし」
「はい」
「面接をしなければ、あなた、採用です」
「はい」
「しかし、面接で落とします」
「どうしてですか」
「取るに足りぬ人間なんて採用できません」
「それは」
「それは?」
「実は」
「謙遜ですか」
「あ、はい」
「本当は実力があるのに、取るに足りぬ人間だと謙遜を」
「いえ」
「そういった分かりにくいことを言う人は駄目なんです。面倒臭いですから」
「お役に立てませんか」
「立つでしょう。しかし性格が悪い」
「従順で大人しいですし、責任感も」
「そうそう、最初からそう言えばいいのですよ。嘘でもいいから私はできる人間で、こんな素晴らしい人なんだと宣伝しないと」
「そうなんですか」
「確かにあなたを雇えば、力を発揮してくれるでしょ。しかし、駄目です」
「どうしてですか」
「最初のひと言で、決まりです」
「噛めば噛むほど味が出て来るのですが」
「そんな味など味わう暇はありません」
「はい」
「次の人が待ってます。お引き取りを」
「私は」
「まだ、何かありますか」
「いえ」
「往生際が悪いですねえ」
「私は」
「何ですか」
「取るに足りぬ人間です」
「それは聞きましただから、不採用です」
 この面接、相性が悪かったのだろう。
 
   了


2018年4月29日

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