小説 川崎サイト

 

お気に入り


「お気に入りというものがありましてね」
「はい」
「これが不思議なんです。なぜ気に入ったのかが」
「でも気に入ったのでしょ」
「そうとしか言いようがありません。なぜかと分析しても出てこなかったりします。似たようなものがありまして、そちらの方が本当は気に入るべきものなのですがね。比べればその良さが分かるのですが、そこでは決まらないようなのです。ですから気に入ったものとはイイモノであるとは限らないのです。もっと良いものがありますし、私に合ったものもあるのですが、今一つ気に入りません」
「贔屓のようなものですか」
「きっとその要素が加わっているのでしょうねえ。依怙贔屓です。そしてその理由が分からない。もっと贔屓したいものがあるはずなんでしょうが、今一つなんです」
「比べてみれば分かるのですね」
「そうです。それで何を比べているのかが曲者でしてね。比べる箇所が違うのでしょう」
「そのお気に入りというのは気になるからではないでしょうか」
「それもあります。なぜか気になる。何処でどう気になるのか、こればかりは、気になるということで、完結してしまうのです。何故と問う人がいますが、その下の階層がないのです。これは理由は作れますし、考えられますが、そういった分析では出てこないタイプがあるのです」
「曖昧なんですね」
「そこだけ解答がない。難解なのではなく、答えがない。探しても。また探す過程もない。そういうのがどうも私のお気に入りだということが分かった程度で、中身ではない」
「琴線に触れるというやつですね」
「そうなんです。直接に。意味なくね。そのものがダイレクトに来る。能書きなしに」
「ではそのお気に入りをいつも使ったり、利用したり、選んだりするわけですね」
「しません」
「はあ」
「実用とはまた違うようです」
「あ、そう」
 
   了



2018年4月30日

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