小説 川崎サイト

 

国境越え


「間道ですかな」
「そうです領外へ出たいのです」
「間道をお探しとは関所が通れない事情が」
「色々と込み入ったわけがありまして、説明しますと……」
「いえ、結構です」
「教えていただけませんか」
「少しお待ちを」
 土地の爺は役人を連れて戻ってきた。旅人はすぐに捕獲された。通報すれば報酬がもらえるため、関所近くの村には、この手の爺が見張っているのだ。
「間道を探しているのですが」
 また一人の旅人が関所近くの村を訪れた。今度は歯抜け婆が相手した。
「間道はありますが。見張りがおります」
「そうですか」
「しかし、あの山を越すか回り込めば領外へ抜けられます」
「じゃ、適当に山を回り込めばいいのですね」
「間道は幾筋も出ていますが、見張りがいます。だから道になっていないところを通るのがよろしいかと」
「ケモノミチですね。それを教えてくれませんか」
「だから、道はありませんので教えようがありません」
「知っている方はおられませんか」
「猟師の庄助が詳しいです。もう年なので、狩りには出ておりませんが、あの山を何度も超えたと聞きます」
「じゃ、庄助さんを紹介してもらえますか」
 歯抜け婆のスースーした声は聞き取りにくかったが役に立ったので、礼金を払い、庄助老にも案内料を先払いし、山へと分け入った。
 ところが、この庄助というのは追い剥ぎの親玉で、山際のところで身ぐるみ剥がされ、金目の物を全て奪われた。
 次に脱出を試みた男は関所から遠く離れた村へ入り込み、そこから山を越えることにした。しかし、そこも有名な国抜けの通路で、一番奥まったところにあるのだが、それだけに目立つのだ。一番目立たない場所が、一番目だった。
 次の脱出者は国境の麓にある村で猟師見習いとして入り込み。一年後に無事山を越えた。何事も時間と手間暇が掛かるという話だが、急いでいるときはそうはいかないだろう。
 
   了





2018年5月4日

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