小説 川崎サイト



餌場教授

川崎ゆきお



「仕事を辞めてから情報に疎くなったよ」
「まだ、活躍されている先生方もいますよ」
「活躍されてるからだよ。情報が必要なんだ」
「先生が集められたデータなんですが」
「もう、古くて、死んでるだろ」
「史料的側面性があります」
「君も活躍しとるから、私のデータにも興味がいくんだな」
「そういう時期がくれば、非常に参考になると思います。その時は、使わせてください」
「時期って、いつなんだ」
「それは、まだ未定ですが、研究の範囲内に入りそうなので」
「台風の進路予想で、私が圏内に入ったのかね」
「あくまでも、予感です」
「いいねえ、そういうの……。必要になるかもしれない情報を今から目星をつけとく。私も昔やったよな。今じゃ、ゴミだ」
「整理はされておられるんでしょ」
「ファイリングしとる」
「それは活かされなかったのですか」
「活きてりゃ、仕事を続けとるよ」
「失礼しました」
「あの研究が復活するとは思えんが」
「そこが面白いところです」
「それは意外な」
「また、注目されると思います」
「そう思いたいだけなんだろうな。私も君も」
「そうでしょうか?」
「私のしくじりを君が引き継ぐことはないよ」
「そんな、先生のご研究には到底及びません。資料として使いたいだけで、精一杯です」
「他になかったの?」
「はあ」
「こういう埋もれた資料はいくらでもあるよ。集めるのは大変だけど、役立たないままのゴミがね。悪いことは言わないよ。私の二の舞いを踏むことはない」
「僕の研究の側面を、先生のデータがフォローしてくれるはずです」
「まあ、いつでも渡すよ」
「ありがとうございます」
「だがね、私も君のように頂戴した資料なんだよ」
「はあ?」
「同じことを、君、狙ってるね」
「あ、いや」
「お互い、良い餌場がないんだろうな」
「先生のその餌場の研究はいけると思うんですよ。情報化時代にふさわしい収集術です」
「誰かの食べ残しだよ」
「類人猿が進化する過程で、肉食獣の食い残しをひたすら追いかけていた連中が、僕らの直接の先祖です。食い散らかしを探す研究はヒットします」
「まあ、頑張ってね」
 
   了
 
 
 



          2007年5月28日
 

 

 

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