小説 川崎サイト

 

踏切を渡る


 線路側からプラットホームが見える場所。そこは踏切。その場所から電車がホームに入って来るのを佐々木は待っている。ここがスポットで、休みの日など同じように写しに来ている人もいる。そのため、佐々木が見付けた秘密のスポットではない。
 流石にホームにいる人は肉眼では見えないが、いるかどうか程度は分かる。電車がホームに入って来るまでに写さないと、それからでは踏切が閉まる。ホームに止まったあたりでもう踏切は閉まり出す。
 そうすると線路が真ん中に見える位置から写せなくなるので、出ないといけない。閉まると閉じ込められてしまう。
 だからホームに着いた瞬間写せばいい。一瞬のタイミング。写したあと、すぐに閉まり出す。踏切の脇からでも写せるが、シンメトリーにならない。斜めからになるため。
 佐々木は望遠レンズで狙いを付け、それを待つ。流石に望遠だとホームにいる人が見える。ベンチに座っていた人が立ち上がる。そしてドアが開いたのだろう。降りる人乗る人の動きが見える。遮断機が閉まる前のけたたましい音を立てる。その駅のすぐ手前に大きな道がある。当然そちらはもう既に閉まっているだろう。写せば、さっと立ち退く必要があるが、一枚目を写したとき、ピントが違うところに来ていた。AFのポーズ位置が電車ではなく、線路のコントラスト高い所に合っていたのだ。だからピンポイントの一点AFにすべきだったと後悔したが、もう一度シャッターボタンを半押しにすると今度は電車の正面ではなく、手前の車に当たった。あれっと思ったのは当然だ。
 一回目のシャッター後、出ないといけないので、二枚目を写したため、遮断機が下り始めているので、写真よりも、踏切内から出る方が先。
 今のは何だったのかと、佐々木は肉眼で駅手前の踏切を見るが、変わったところはない。客を乗せ終えたのか、電車は走り出したようだ。
 そして佐々木のいる踏切前を通過していった。
 あれっと思ったのは駅手前の踏切は閉まっているはずなのに、車の姿を見たのだ。渡っているところを。そこをカメラのAFが拾い、そしてシャッターを切った。
 佐々木はすぐに背面液晶で、今写したものを見たが、車の姿はない。その前に写したのを見ると、客が乗り始めた止まった状態の写真。これを写したかったのだが、やはりピントが来ていないので鮮明さがない。
 そして最後に写したのをもう一度見ると、車は写っていないが、電車にしっかりとピントが来ている。だから、満足したのだが、二枚目は確かに車が横から入り込んできていたはず。渡っているのだ。そしてピントが車に合ったことまで分かっている。しかし、車は写っていない。
 それよりも閉まっている踏切では渡れないはず。
 その踏切はホームに近い。電車はまだ止まっているが、遮断機は下りていたはず。
 どちらにしてもあり得ない現象だ。その証拠に写したはずなのに写っていない。
 きっとその車、白かったが、踏切を強引に渡ったのかもしれない。しかしそれなら写っているはず。
 白い車が横切った証拠写真がない。逆に写したはずなのに写っていないことが証拠になる。
 
   了


2018年5月17日

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