小説 川崎サイト

 

大家と後継者


 その道の大家がおり、この人はパイオニアのような人で、その道を切り開いた人。それだけの力もあるのだが、新時代には新時代の力がいる。それを持っていたのだろう。絶対的な一人で、並ぶものはいないが、そのライバル達はいるにはいる。だが古い道の人達で、もう世界が違っていた。
 その大家もやや陰りを見せる年になり、昔ほどの勢いはなくなった。しかしその道の第一人者として君臨していることは確かで、その道に入ってきた人達は、全てその大家の弟子だと言える。
 それでそろそろ後継者の話になるのだが、どの人もそれを望んでいないようだ。後継者として君臨できるのだが、誰もがその大家のようにはなれないことを知っていた。いい後継者になれると言われるようになっても、大家と比べると存在感が違いすぎる。それに弟子達の中の一人が継ぐわけで、ライバルが多すぎる。そして飛び抜けた人はいないので、今の大家を超える人もいない。追いつくだけ、追いかけるだけで一杯一杯だろう。近付く程度。
 だから誰もあとを継ぎたくない。そういう状態だと上を望まず、枝分かれを始める。分家のようなものだが、それぞれが一家をなすようになる。目指しているのはあの大家ではなく、自分自身の道。大家の真似はできるが遜色がある。比べると分かる。それにその大家が全てよく、全てがお手本であるとは思っていない。それぞれが独自性に目覚め始めていた時期だろう。
 そしてその大家は意外と若くして亡くなった。過労だろうか。このときも後継者の話題は出なかった。それぞれが小さな大家になっていたためだろう。
 小さな大家がそれぞれの道を行くことになったというより、それが自然な流れだった。
 後継者になりたがらない。譲り受けるよりも、小さくても自分の流儀で行く方がいいのだろう。
 
   了


2018年6月3日

小説 川崎サイト