小説 川崎サイト

 

闇手組


 天知村の百姓家に闇の使者が来た。戸数は少ないが辺鄙な村ではない。どの百姓家も豊かで、この地方では珍しい。
「お仕事が入りました」
 正三は「そうかと」と頷き、用件を聞いた。
 闇の使者とは闇手組と呼ばれる組織で、この村の大半は闇手組に属していた。
「しばらく留守にする」
 と、正三は家人に言い残し、村から出て行った。
 闇の使者は他の村にも回るといい、途中で別れた。
 正三は都近くまでやってきた。そこに公家の別荘がある。その警備なのだ。
 正三が来たので、同じ村の彦造と交代した。天知村の者はまだ二人ほどいる。あとの二人は別の村。都合五人が常駐することになる。
 別荘は広く、木々に囲まれ、そこは別天地。それを塀で囲んでいるのだが、正門近くは長屋門。ただの塀ではなく、馬小屋や詰め所などがある。長屋のようなもので、闇手組はそこを兵舎といている。持ち主は公家。天知村はその荘園。
 正三達は所謂私兵で、百姓なのだが、ここでは武装している。まあ、門番のようなものだが、実際にはその必要はない。別荘には普段、誰もいないのだ。
 ただ、公家連中が隠れ宿として、たまに利用している。それでも、わざわざ遠い場所に散っている荘園から護衛兵を呼ぶような話ではない。
 それに闇手組と言われるのだから、これは闇の仕事があるのだろう。
 この別荘、多いときでは五十人ほどの闇手組が詰めていたことがある。都で異変が起こったときだ。
 当然、平時でも荒仕事がある。何かと闇の手が欲しい。また必要としていた。
 しかし、ここ数年は五人ほど。それに領主の公家に勢いがなくなり、活躍の場が減ったのだろう。
 この兵役のようなものは数ヶ月で交代する。正三も戻ることになるのだが、そのとき、結構なご褒美がもらえる。それと闇の仕事中、ちょろまかしたものもある。
 その闇の仕事、正三がその間やったのは夜中に物を運んだ程度。
 さほど豊かな土地ではない天知村だが、裕福な家が多い。
 
   了


2018年8月8日

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