小説 川崎サイト

 

十三家


 秘境探検家の高橋はその日も郊外の町を歩いていた。秘境といっても山の中にあるわけではない。街中にある。街中の何処に秘境などあるのかと問われるが、よく見るとあるのだ。ただ地形的なことではない。しかし、地域性に関係するものが含まれていると、根が深い闇がそこにある。
 葬式でもあるのか年寄りが大勢歩いている。きっちりとした身なり。場所は旧村道だろうか、少し古い家が並んでいる。しかし羽織袴の人が多い。落語家の襲名披露でもあるのだろうか。
 農家の親父だろうか、道を開けて頭を下げている。一方通行の車道だが、不思議と車が入ってこない。 老人達は十人以上いるだろか、若い人も混ざっているが、列の後ろと前だけ。
 このことか、と思いながら、高橋は待ち合わせ場所の喫茶店に入る。メールで知り合った大熊が先に来ていた。地元の人だ。
「もう先に見ましたか。じゃ、話が早い」
 大熊が説明し始めた。
「ちょっと待って、探索もまだなのに、いきなり答えを聞いても」
「別にありませんよ。探索するような場所なんて」
「葬式、または法事」
「あの人達ですね」
「そうそう」
「闇をやっているのですよ」
「あれがメールで言っていた闇」
「そうです」
「そういう団体ですか」
「この地方のヌシでしょ」
「危ない人達」
「こんな小さな町に、そんな人達はいませんよ」
「じゃ、自治会」
「まあ、それに近いですが」
「何ですか。もう、いきなりですが、知りたいです」
「氏子でも、お寺の檀家衆でもありません。その上に立つ人達です」
「へえ」
「僕は親がここに越してきてから産まれた子ですが、滅多に見たことがなかったのです。その存在も知りませんでした。また、知ったとしてもどうってことはありません。ただ、滅多に表に出てこない人達ですから」
「団体名はありますか」
「ありません」
「ちょっとした町の集まりがありましてね。新しくできたイベントです。まあ、盆踊りとフリーマーケットを合わせたようなものでしょ。そのとき、普段見かけない年寄り達がいました。君がさっき見たあの集団ですよ」
「何者なのですか」
「十三家です」
「何ですか、それは」
「旧村時代の代表者です」
「それで十三人の人が歩いていたのですか」
「代表は十三家の回り持ちで、君が見たのは代表の交代があるのかもしれません。僕らでは窺い知れませんがね」
「じゃ、その十三家がこの村を仕切っていたわけですね」
「そのうちのひと家が欠けると、それに次ぐ家が入ったようです。十三人以下でも以上でも駄目なようです」
「それで、神社や寺の上に立つと」
「昔は五百戸ほどの村です。それなりに大きいですよ。しかし、この村、周辺の五箇所村を実は纏めているのです。それを併せますと、市町村レベルの半分ほどになります」
「でもそれなら村長とか、町長とか、市長とかでしょ」
「その上にいます」
「あの年寄り達がですか」
「そうです。表には出ません。だから闇なんです」
「闇の組織」
「組織と言うより、仕来りでしょ」
「そんな旧時代の勢力がまだ生きているのですか」
「形だけだと思っていたのですが、この前のイベントで、市長が深々と頭を下げていました。市長より偉い人がいるんだと、そのときピンときましたよ。しかも十三人も」
「それは地元の人間に対する愛想でしょ」
「あなた、先ほど見たときの、道、覚えていますか」
「当然ですよ。大きな屋敷が並んでいましたねえ」
「それじゃなく、車がいなかったでしょ」
「はい」
「この町の闇です。本当に偉い人は闇の中にいるものです」
「興味深いですが、この時代、そんなものがいるわけが」
「だから誰も信じません」
「組織名もないのでしょ。ただの大きな家の人達の寄り合いでしょ」
「そこを通さないと、何一つできません」
「講ですか」
「講にもいろいろとあります」
「宗教と関係しますか」
「しません」
「それ以上、何か分かりますか」
「十三家並みに大きな家が他にもあります。そこの息子から聞いたのですが、十三家に入らないと、実際のことは分からないとか」
「秘密結社ですねえ」
「講の一種だと思うのですが、何が軸になっているのかはまだ掴めません」
「はい、有り難うございました」
「まあ、こういう話は直接話した方がいいと思いましてね」
「はい、参考になりました」
 高橋は地元の大熊と別れて、またあの通りに出た。そして少し歩いていると、道への出入り口で水道工事をやっているのを見る。車が入り込めないのはそのためだろう。きっと水道局を動かしたのだろと、闇を感じた。
 しかし、それは偶然といえば偶然。十三家の年寄り達はそのひと家の屋敷に集まっていたのだが、大熊の言うような集まりだったのかどうかは分からない。
 
   了


2018年8月16日

小説 川崎サイト