小説 川崎サイト

 

二人の男


「涼しくなってきましたなあ」
「夏が終わったのでしょ」
「仕事も終わりましたよ」
「それはお疲れ様」
「全ての仕事がです。今日の仕事じゃなく」
「ほう、それは淋しい」
「まあ、ほっとしていますがね」
「僕なんて、まだまだ仕事です。これは個人事業主なので、死ぬまでやり続けますよ」
「それはご苦労なことで」
「また、新しい仕事を見付けられては如何です」
「いや、もう年ですので、あとは遊んで暮らしたい。もう十分過ぎるほど働いたので、この日を待っていたようなものです」
「僕も仕事を辞めて遊んで暮らそうかと思うのですが、退職金がない。蓄えもない。だから働くしかないのです。それに比べると、羨ましい限りです」
「本当ですか」
「本当です」
「本心で?」
「いやに拘りますねえ。そうですよ」
「いや、私はあなたのようにずっと仕事が続けられる人が羨ましい」
「じゃ、交代しますか」
「隣の芝生ですねえ」
「そうです」
「しかし、もう仕事へ行かなくてもいいので、気が楽になりました。これだけでももう十分」
「僕も休みたい」
「今のお仕事、お好きですか」
「はい、好きですよ。というかもう習慣のようになってましてね。この仕事をしていないと、自分じゃないような」
「そりゃいい。私なんて、つまらん仕事で、いやいやながらやっていましたよ。あなたは楽しくやっておられたのですね」
「楽しくはないですが、遊んでいるよりも、やっている方が落ち着くので」
「参考になりました」
「はい、いい余生を」
「はい」
 
   了

 


2018年9月16日

小説 川崎サイト