小説 川崎サイト

 

悪魔の赤ちゃん


 古くさいビルがある。レトロビルというには新しい。雨の中、そのビルに入っていく怪人がいる。服装がなそんな感じに見えるためだ。長いマントを被り、深編み笠のような帽子を被っている。いずれもあつらえたものではなく、探せば似たような物が売られている。
「雨の中、わざわざお越し頂いて恐縮です。こちらから窺うべきなのですが、忙しくて」
「いえいえ」
「そのマントはカッパですか」
「はい、股旅物に出てくるようなやつですよ」
「縞の合羽に三度笠というやつですね」
「まあ、そんな感じです。これで傘いらず」
「そういえばキノコも笠を広げますなあ。あれも笠なのでしょうか」
「笠の裏側に大事なものがあるのでしょ」
「ありますねえ、ギザギザしたヒダのようなものが」
「ところで、お話しとは」
「はい、本題に入りましょう」
「どんな怪しげなことが起こりました」
「このビルに悪魔の赤ちゃんがいるらしいのです」
「ここはオフィスビルでしょ」
「元々は高級アパートだったのです。だから部屋と部屋の仕切りがもの凄く分厚い。オフィスビルでは必要のない倍ほどの。それに外から見ると分かるのですが六階建てなんですが高さは七階を越えています」
「それほど天井が高くは見えませんが」
「上と下との隙間が広いのかもしれません」
「六階なのに、実は七階があるとか」
「そこに悪魔の赤ちゃんがいます」
「どうして分かったのですか」
「泣き声です」
「悪魔の赤ちゃんなら泣かないと思いますが」
「いや、その泣き方が悪魔っぽい」
「すぐに聞けますか」
「ずっと泣いているわけじゃないし、壁が分厚いので、壁に耳をあてないと聞こえません」
「じゃ、耳をあてて聞いた人がいる」
「僕です」
「どの階ですか」
「六階の壁に耳をあてると聞こえてきました」
「ビルの見取り図は」
「ありません。しかし、七階はありません」
「はい」
「面倒な話ですねえ」
「だから、調べて欲しいと」
「ペットでも買っているのでしょ」
「五階から上はまだアパートですが、ほとんどが個人オフィスです。だから本当に住んでいる人はいません」
「住んでもかまわないのでしょ」
「もちろん」
「じゃ、ペットでしょ」
「流石に妖怪博士、乗ってきませんなあ」
「猿とか」
「分かりました。調べる必要はないということですね」
 依頼者は妖怪博士を欺すため、いろいろと仕掛けを作っていた。悪魔の赤ちゃんがいる隠し部屋の見取り図を仕込んだり、テープに録音したものをタイマーで鳴らすとか。その他、ワイヤー類とか、偽装のドアとか、映写機まで用意していた。
 しかし、妖怪博士はすんなりと、雨の中、立ち去った。
 折角準備をしていたのに、手間暇掛けたのに無駄に終わったようだ。
 
   了

 



2018年9月24日

小説 川崎サイト