小説 川崎サイト

 

マルコ


 マルコと呼ばれているが、女性ではない。冒険家。マルコポーロから来ているあだ名。姓は丸山。だからマルコと近いので、そう呼ばれるようになったのだが、そう呼ぶ人は少ない。ニックネームで呼び合う関係の人が少ないのだが、たった一人、マルコポーロと呼ぶ知り合いがいた。いろいろな人からそう呼ばれていたわけではない。
 その後は丸山よりもマルコと呼ばれる方が多くなり、今では丸山という本名を知らない人もいる。
 マルコは冒険家なのだが、遠洋を旅するわけでも深山幽谷に分け入るわけではない。逆に旅は苦手で出不精。
 だからここで冒険家と呼ばれるのは、先陣を切るためだろう。先陣、真っ先に突っ込む人。得体の知れないものに対しても、それをやる。そのため危険が多くリスクも高い。その意味での冒険。
 また、それを人柱、サンプルという人もいる。踏み込むのが危険な第一歩というのがある。悪くいえば捨て石。薄い氷で割れておじゃんになるかもしれない。マルコはそれを踏む人。要するに身軽なのだ。体重が軽いので割れにくいというわけではない。気持ちが麩のように軽い。
「どうですかマルコさん。最近の冒険は」
「いや、もう年ですよ。もう怪我はしたくないので、最近は控え目です」
「もう怪我と、儲けが、を引っかけていませんか」
「分かりましたか」
「マルコさんは先駆者です」
「儲けるのは二番手、三番手でしょ」
「しかし、真っ先に駆けるのは気持ちがよかったでしょ。誰もまだ踏んでいない真っ白な雪、新雪とか」
「そうですなあ。あとのことよりも、その真っ先が楽しかった。それで充分だったのかもしれません」
「真っ先なので、掴めるもの、得られるものも沢山あったでしょ」
「いや、未踏地へ到着した瞬間、次の未踏地へ行きたくなるもので」
「今なら、大金持ちですよ」
「そうですなあ。そのために突っ込んだのですがね」
「今度はどんな冒険へ」
「いろいろとありますが徐々に魅力あるものが減っています。魅力は見出すもの。だからその見出す力が弱まっているようです」
「雀百まで踊り忘れずと言いますよ」
「そうですなあ」
「まだまだ踊って下さい」
「はいはい」
 
   了

 



2018年9月26日

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