小説 川崎サイト

 

幽霊の手先


「山田君、急ぎの仕事が入ったので、すぐにやってもらえますか」
「じゃ、メンバーを集めます」
「簡単でいいから三人ほどでいいでしょ」
「十人いないと」
「三人でお願いします。それと素早く」
「はあ」
「急ぎの仕事なので、大至急お願いします」
「しかし、その人数では」
「できれば今日中にお願いします」
「三日ほどかかるのですがね」
「今日中にお願いします」
「そうなると、かなり簡潔なものになりますが」
「簡単でいいのです」
「では、ミーティングから」
「それで一日かかってしまうでしょ」
「そうですね。省略します」
 山田はスタッフ三人と一緒に、大急ぎでやったため、かなりアラっぽいが、その日のうちに完成した。
「できたじゃないですか、山田君」
「スタッフが頑張ってくれたからです」
「君も良く頑張った、偉いよ」
「はい、有り難うございます」
「今のところクレームは来ない。あれでよかったんだよ」
「はい」
「今後は十人じゃなく、三人でやって下さい」
「それはきついです」
「今回は時間がなかったので、一日しかなかったので、それではきつすぎたでしょ。二日でやって下さい」
「しかしスタッフは三分の一の上。三日かかるところを二日では」
「山田チームは丁寧な仕事をするので、これは良いことですが、丁寧すぎるのです」
「はあ」
「それが私のチームの売りでして。最高のものができます」
「ところが先方はそんな最高のものなど求めていないのですよ」
「はい」
「それと、もっとアラっぽくやってもいいのですよ。粗雑でも結構です」
「しかし」
「どうせ先方も仕事ぶりなど見ていないのです」
「はい」
「クレームが付くのは遅くなったときだけ。今回はそれをクリアしたので、問題は何もありません」
「しかし、いつまで続くのですかね。この空仕事」
「さあ、先方は我が社に発注し、仕事をしている振りをしているだけです。だから本当は楽な仕事なのです」
「どうしてそんなことを」
「さあ、よく分かりませんが、幽霊組織ではないと言うことだけを言いたいためでしょ」
「じゃ、僕たちは幽霊の手先ですか」
「実体のない仕事ですが、仕事は仕事、頑張ってやりましょう。それと、スタッフを減らせることが分かったので、君の給料、上がりますよ」
「はい」
 
   了





2018年10月18日

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