小説 川崎サイト

 

余暇の過ごし方


「最近忙しそうですね」
「いろいろと慌ただしくてね」
「それは結構なことで、景気がいいのですね」
「景気も何も、私は仕事をしていませんから。そのため、物価が下がるとありがたいです。景気がよくなります」
「いやいや、物価が下がりすぎると危ないでしょ」
「そうですか。まあ下がった分、余ったお金で何か買ってしまいますから、同じことですがね」
「じゃ、最近どうして忙しいのですか」
「やることがないので、いろいろと埋めネタをこしらえていたのですが、それが増えましてね」
「ほう」
「どれも経済には関係しませんが、やることが増えると必要な品やサービスも増えます。一円も使わない余暇の過ごし方もありますが、それじゃ私自身の景気が下がる。これは気分の問題です。景気は気分と似てますからね。そういう雰囲気になると、そういう気持ちになる」
「では、やることを減らせばゆっくりできるじゃないですか」
「何かをしている方がゆっくりできるのです。ただ単にゆっくりとか、のんびりとか、ぼんやりとかは逆に難しいですよ。まあ人によって違いますが、私は何かをやっているときがいいのです」
「それを増やしすぎたのですね」
「そうです」
「じゃ、減らせばいいことでしょ」
「自然にやめてしまったものはいいのですが、まだやりたいのに、強引にやめるのは何ですかねえ、本意じゃないので、今ひとつです」
「いずれも絶対にしなければいけないことじゃないのでしょ」
「朝、起きたとき顔を洗いますねえ。そして朝ご飯をいただく。これは外せないでしょ。まあ、仕事で忙しかったときは朝は抜きましたがね。それは少しでも寝ていたいからですよ。今じゃ夜更かしをしても、昼寝できますからね」
「絶対に必要なこと以外で抜けるところがあるでしょ。しなくてもいいような」
「基本的なこと以外は、どれもしなくてもいいことですが、それが日課になると、外せないものです」
「そうなんですか」
「余暇というのは、仕事を終えた後とかちょっと時間が空いた状態。しかし一日中余暇じゃ、ちょっとじゃない。初めの頃は暇で暇で仕方がなかった。余るほどあったのですが詰めすぎて今じゃ忙しくて忙しくて仕方ありません」
「しかし、のんきな話です」
「そうですか」
「ところで、お忙しいでしょうが、ちょっとした集まりがありましてね。是非参加してほしいのです」
「あなた、今までの話、聞いてなかったのですか。それにあなた、減らした方がいいとおっしゃった。逆じゃないですか」
「ちょっとしたボランティア活動なのですがね。空いている時間で結構ですから、来てもらえませんか」
「ボランティア」
「はい」
「絶対に行きません。これ以上忙しくなるのはいやです。それに余暇の余暇がありません。もう余暇に余裕がないのです」
「これは社会的にも有意なことですから、ただの暇つぶしとは違います」
「私の余暇の過ごし方は、有意なことはしないことです。どうでもいいようなことだからできるのです」
「そうでしたか。それは残念」
「それに私、ボランティアは大嫌い。一円でもお金がもらえるのなら行きますがね。出しますか」
「出ません」
「じゃ、私も出ません」
 
   了

 


 


2018年11月3日

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