小説 川崎サイト

 

ミスマッチ


「寒くなってきましたねえ」
「晩秋ですから」
「秋のお晩でやんすのう」
「故郷は北ですか」
「いや南です。暖かい気候に慣れていますから、寒いのは苦手です」
「この季節寒くならず暖かくなっていくと逆におかしい。異常気象だ」
「地球の温暖化とか」
「いや、氷河期が来るという説もありますよ」
「あ、そう。そっちの方がきついですなあ。さらに寒くなると」
「しかし、冷え込んでいます。私たちも」
「ああ」
「こうして話すことでコミュニケーションがとれ、より親しくなれ、より多くの共有を得ると言いますが、違いますなあ」
「はいはい、それについては同意します。話せば話すほど溝が深まる」
「何でしょうなあ我々は」
「ミスマッチコンビじゃないですか」
「私がものを言うとすぐにあなたは違うことを言う。まるで逆らうように」
「あなたもそうでしょ」
「そんなつもりは微塵もありませんよ。しかしそれじゃ嘘をついていることになる。これじゃコミュニケーションとは言いがたいでしょ。自然じゃない」
「まあ、歩み寄る必要がないからでしょ」
「それではコンビとして成立しない。チームプレイが今ひとつです。一人でやるより二人でやった方が三倍ほどよくなる。二倍じゃなく。しかし我々は一人でやっているときの半分だ。これはマイナス。だから一人でやった方が早いというより、遅くならない」
「二人で足の引っ張り合いをしているからでしょ」
「あなたそんな意地悪をやっているのですか」
「やっていませんが、ついつい」
「能率が倍か三倍、いやそれ以上になるはずなのに、どうしてでしょう」
「言ってもいいですか」
「どうぞ」
「あなた気分を悪くしませんか」
「それは大丈夫、あなたと話しているときはいつも気分が悪いので」
「じゃ、言います。あなたが嫌いなのです」
「分かります。その気持ち。実は私もそうなのです」
「これじゃだめですよね」
「同意します」
「意見が合いますねえ」
「ミスマッチなので、解散しましょう」
「はいはい、喜んで」
 
   了
 
 


2018年11月5日

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