小説 川崎サイト

 

昼寝


「最近忙しくてねえ」
「忙しいのに、よく遊びに来たねえ」
「忙しついでだ」
「でも忙しくていいじゃないか」
「忙しいだけで儲かっていない」
「商売をやってるわけじゃないだろ」
「いろいろと先のことを考えて、動いている。下準備のようなもの。いずれも有為なこと」
「いい調子じゃないか」
「それで、昼寝ができなくなった」
「昼寝なんてしてるの」
「ああ、体調を崩したとき、よく昼寝をした。その癖が残っていて」
「忙しすぎて体調を崩したんだろ」
「まあ、そうだけど」
「また体調崩すよ」
「それがある。元も子もなくなる」
「しかし積極的に打って出るだけでも羨ましいよ。僕なんて、何もしていない」
「それは似たようなもの。君を見ていて思い付いたんだ。やはりやらないといけないと。動かないとね。でも昼寝ができないほど忙しいというのはやばいねえ。仕事が上手く行くより、昼寝できる身分の方がいい」
「じゃ、どっちを選ぶ」
「うーん。昼寝は捨てがたい。暇で暇で仕方がないときの気分ね。これは立ち位置が悪いし、将来に対する不安が出てくる。しかし、だらだらした暮らしは楽でいい」
「じゃ、もう忙しく過ごす必要はないでしょ。どうせやったって成果なんて出ないわけだし」
「決めつけるな」
「いつもそうじゃないか」
「今回は手を変え品を変えてのアタックなんだ」
「それは前にも聞いたよ」
「それは手も品も悪かったんだ」
「手品だね」
「そういう話じゃない。魔法じゃ解決しない」
「山田を知ってるだろ」
「ああ、天才だ。うんと若い頃に世に出た」
「今は」
「そうだな。凡人になったなあ」
「そうだろ、以前会ったときは態度がでかかったが、今は柔らかい。腰も低くなってる」
「高転びしたんだよね」
「そうそう。今じゃ、僕らよりも下だろ」
「そういうことがあるから、気をつけないと」
「心配することはないさ。そんな才能はないから」
「しかし、世に大きくて出て大活躍しても、大したことじゃないよ」
「やめろよ。そんな若年寄のような言い方」
「じゃ、昼寝はどうする。取る。取らない」
「うーん」
「昼寝を取りたいだろ」
「かなりね」
「そういう根性だからいけないんだ」
「やはりなあ」
「本当は止めて欲しくて、ここに来たんだろ」
「その面もある」
「じゃ、もう決まってるじゃないか。昼寝を取ると」
「そうだな」
 
   了



 
 


2018年11月17日

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