小説 川崎サイト

 

神守


 喜地家は神守の家柄だが、都も近く古くから拓けた場所とはいえ、田舎くさい山沿いにある。周囲には農家が点在している程度。晩秋の山里は柿が実り、干し柿の産地でもある。
 都があった盆地のためか、その端にも寺院がある。流石にここは遠いので、観光地化されていない。
 喜地家が祭っている神というのには建物がない。そのため、神社はない。
 神守とは神を守る人々だが、喜地家のそれは墓守に近い。つまり神様の墓を守っているのだ。神仏は死なない。神は死んだというのは比喩ではあるが、実際には聞かない。当然神仏の墓など、あるかもしれないが一般的には流行っていない。
 喜地家が守り続けているのは堂。だから村人は堂守と呼んでいる。しかし、そんなお堂はなく、実はお洞。洞窟だ。
 寺社などができる以前は、自然にできた洞穴などがお堂の役目をしていたのではないかと思えるが、喜地家が守る神は、先祖ではない。その神様の系譜ではなく、あくまでも管理人のようなもの。お世話する側。下部だ。しかし、神の墓ではない。
 洞窟内には何もない。穴のある裏山は喜地家の持山。代々この山を守っているが、守りたいのは山ではなく、穴が空いている箇所だけでいい。洞窟は喜地家の裏庭からしか入り込めない。横からでも山側からでも入り込むことはできるが、村人はここには近付かない。それに興味もない。
 しかし長い年月のうちに、喜地家の裏山に洞窟があり、何かを祭っている程度のことは漏れ伝わるもの。
 しかし、屋敷内にお稲荷さんや地蔵さんを祭ってある程度の常識内に収まっている。
 その洞窟内には何もない。祭壇もないし、神具もない。ただの横穴で、奥は流石に暗いが、深くはない。
 喜地家に伝わる言い伝え、これは口伝で、書いたものはない。それによると、その神について触れられている。どうやら動物のようだ。
 その姿も伝わっているが、想像上の動物だろう。ただ、羽根がある。
 だから、鳥だろう。
 言い伝えでは、神守の仕事は待つこと。
 洞窟内に、ある人突然卵が出現するようで、卵を守り、ふ化を見守り、ヒナを育てること。
 歴代の神守喜地家の当主の中には、それは孔雀だという人もいれば、極楽鳥、鳳凰、鶏、等々と想像している。時代により、鳥の形が違うし、また鳥ではないと言い出す当主もいた。
 この言い伝え、この盆地に都ができる以前からある。喜地家はその家系ではないかと思われるが、古い家柄だが、単に古くから土着していた程度だろう。墓守程度の身分なので。
 今は、そういう言い伝えが残っている程度で、喜地家の当主は、神守の仕事をもう辞めている。洞窟はそのまま放置されており、古い時代に作られた入り口の蓋のようなものも、崩れかかっている。これは中が危ないので、補強し、鍵を掛けて、入れないようにしている。
 だから、もう神守はしていない。
 もし卵が降臨した場合、どうするのだろう。
 
   了



 


2018年12月8日

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