小説 川崎サイト

 

仲間食い


「式田さんを入れるのですか」
「参加したいと言ってます」
「はい」
「多い方がいいでしょ」
「そうですが」
「小さくても多く集まれば大きな勢力になります。一人でも多い方が好ましい」
「はい」
「何か不満そうですが」
「聞いてませんか? 式田さんの噂を」
「いや」
「仲間喰いです」
「え、どういうことかね」
「仲間を喰らって大きくなったのです」
「まさか人肉を」
「似たようなものです」
「詳しく話しなさい。危険な人なら、入れない」
「はい。私達が今やっている連合。仲間を増やして大手と戦っていますが、式田さんは敵と内通しているのです。敵の攻略ではなく、仲間の攻略がメインなのです」
「敵の力を借りて、仲間を食べてしまうのか」
「敵は大手ではなく、仲間なのです」
「え、分かりにくいねえ」
「ですから、内側に式田さんという敵を抱えていることになります」
「じゃ、大手側の人間かね」
「違います。式田さんの敵は大手です。私達と共通の敵と戦っています」
「大手と戦っているはずなのに、どうして味方を取りに行くのかね」
「その方が大きくなるからです」
「それで仲間喰いか」
「うーむ」
「ターゲットは大手ではなく、仲間なのです」
「面倒なことをする人だねえ」
「大手には勝てません。それが分かっているのでしょ。だったら仲間の一つ一つを奪った方がいい」
「大手の力を借りてかね」
「それはありません。大手とやり合うより、私達のメンバーを奪った方が楽ですから」
「どうしてそんなことになる」
「知りませんよ。しかし、式田さんはこれまでそういうことを何度もやり、ある程度の規模になっています。三つか四つ食べたのでしょうねえ。だから結構大きな勢力です。大手には負けますがね。だから仲間にしたいのです。式田さんが加わることで、私達は大きくなります。大手攻略ができる可能性も高くなります」
「そうだろ」
「しかし、私達が集めた仲間の何処かを囓り出します」
「悪い奴だなあ」
「はい、だから、心配しているのです」
「それは困った」
「下手をすると、私達も喰われてしまいますよ。乗っ取られます」
「それで、式田さんは何をしたいのかね」
「大手をやっつけることです」
「それは嘘だろ」
「そうかもしれません」
「要するに式田さんはやり手、豪腕ということだろ。その噂は聞いている。凄い男だと。だから参加してもらいたい」
「喰われますよ。乗っ取られます」
「まあ、いいか」
「ええええ、どういうことです。何がいいかなんです」
「喰われてみようじゃないか」
「そ、そんな」
「仲間を纏めるのが面倒になってねえ。どうせ勝てない相手と戦うんだし」
「それはいけません」
「じゃ、式田さんを入れないようにするか?」
「その方が平和かと」
「戦う集団が平和では困るだろ」
「あ、そうですが」
「ここは一つ、喰われてみましょう」
「それは、いくらなんでも」
「どうせ喰われるのなら、喰わしてやる方がいい。喰われるにしても余裕がある」
「いやいや、そんなことより、式田さんを入れなければ問題は起こりません」
「だが、式田さんを入れると、大手に勝てるかもしれない。入れないとなると、私達だけでは、無理だ」
「いえ、抵抗するだけの力はあります」
「しかし勝てない」
「はあ」
「式田さんが我々を喰った後、今度は大手を食い出すだろう」
「どんな胃をしているのでしょうねえ」
「さあ」
 
   了




 


2018年12月9日

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