小説 川崎サイト

 

目的の喪失


 さて、何処へ行くか。倉田は思案した。思い当たらない。その行き先は目的。路上で彷徨っているわけではない。目的とする行き先、これは場所ではないが、場所でもある。ただ、駅へ向かうとか、買い物に行くとかのそれではない。ただ、ある目的のため、駅へ向かったり買い物をするかもしれない。
 この前まで倉田には行き先があった。目的があった。それは長期でもあり、短期でもある。長い目の目的は大きな目標、生涯掛けての目的だろうが、その生涯は終わってからでないと分からない。
 倉田にとっての大きな目的はライフワークのようなもので、仕事でも趣味でもいい。ずっとやり続けるようなもの。
 ただ、最近の倉田の目的はすぐに終わる。つまり目先のものを追いかけることが多い。当然その目先は将来とも繋がっている。過程の中の一つ。ただ、一過程だけで終わったりする。しかもその過程を乗り越えて次の過程へと行くはずだが、そこでやる気が失せたりする。
「目的ねえ」
「何かないかなあ」
「そりゃそうだよ。目的がある方がやりやすい。考えなくても済む」
「そういう盲目的な目的を探している」
「思慮なしかい」
「考えても始まらん。まず最初の一歩が大事。これを踏みたいと思うか思わないかで決まる」
「でも最初の一歩はきついけど、それを踏まないと先へ進めないこともあるぜ」
「それもあるでよ。しかし、キツイ一歩の次にまたキツイ一歩じゃ、ずっときつそうじゃないか」
「じゃ、ずっと柔らかいのがいいのかい」
「そうそう」
「まあ、それじゃ大した目的じゃないってことになる」
「目的の質やレベルが問題なんじゃなく、目的があるかどうかなんだ」
「それは分かるけど」
「その目先の目的、やり倒してネタが切れた」
「じゃ、無目的でもいいじゃないか」
「それじゃ自分に対しての説得力がない。何かのために何かをやっているという図が欲しい」
「目的なんてなくてもいいじゃないか」
「でも形が欲しい」
「それで今は何もないわけかい」
「うむ」
「そんなときはどうするの」
「待つしかない」
「じゃ、あまり必要じゃないんだ」
「え、何が」
「目的がだよ。探さないと出てこないんだろ。それは目的を必要としていないか、または平和なんだよ」
「いや、作ろうと思えばいくらでも目的は作れるけど、それはメンテナンス系で、あまり面白くない。いやいややるようなことだから」
「仕事なんかもそうだね」
「そうそう」
「仕事はどれも嫌なものさ」
「うん、そう言い切っても差し障りはない。事実だ」
「だったら趣味方面での目的がいいんじゃないのかい」
「それそれ、趣味だよ。趣味」
「要するに、趣味が途絶えたってことだね」
「まあ、そうだ」
「趣味とは何だろう」
「楽しみかもしれない」
「そうだね」
「やってみたいという気が湧くもの」
「やりたいものだね」
「そうそう」
「趣味といっても広い」
「その中で、柔らかくて楽しいのがいい。わくわくするようなね」
「じゃ、何だったら、わくわくする?」
「何も湧かないので、探しているんだ」
「金さえあれば簡単に楽しめるんじゃない」
「それもやったけど、逆に苦しい。それにコスパが低すぎる」
「だったら倉田君」
「何だい」
「そこから察すると、君は一番良い状態なんだ」
「え」
「そんな暇なことを考えられるだけね」
「そうかなあ。目的がないので、苦しいけど」
「いや、そうじゃない」
「目的の喪失、これは深刻だ」
「はいはい」
 
   了




2018年12月14日

小説 川崎サイト