小説 川崎サイト

 

行く年来る年


 年は行くもの。年末によく使われるが個人的な時でも使われる。これは年が行くと歳が行くとが重なりやすい。
 年は行き、年は来る。行く年来る年。これは行く人もあれば帰る人もあり戻る人もいる。これは場所や事象だろうか。
「今年も行きますなあ」
「何処へ」
「え」
「年が何処へ行くのです」
「来年へ」
「何が行くのでした」
「だから年だよ」
「でも今年が来年に行ったら、去年になり、その去年には誰がいるのですか」
「過去がいる」
「まだ、いるわけですな。じゃ、移動していない」
「年が変わるので、それ以上変化はない。固まったままの過去だ」
「そういう塊が毎年できるのですか」
「思い出の中にな」
「なるほど」
「そして今年も暮れて行く。そしてまた年明け。暮れては明け、明けては暮れる」
「そういうときの神様はいますか」
「正月様がそれだな。歳神様」
「目出度そうですねえ。饅頭団子のようにふっくらとしたお顔に見えます」
「年の神じゃ」
「時の神もいますねえ」
「いいタイミングで助けてくれる神かな」
「神様だらけですなあ」
「まあ、人が作ったものなので、作ろうと思えばいくらでも作れるが、定着するかどうかは分からん。最近など、新たな神などできていないので、ほとんどが古典だろう」
「いろいろと由来がありそうですねえ」
「大陸から来たものが多いはず」
「たとえば」
「饅頭を供えるだろ。まん丸の。四角いと駄目なんじゃ」
「どうしてですか」
「首に見えんからじゃ」
「首」
「切り落とした頭」
「え、じゃ生首を供えているのですか」
「生首の代わりに、饅頭を供える」
「なんですか、それは」
「生け贄じゃ」
「それは生々しい」
「これで、神が鎮まる」
「そんな野蛮な」
「本物の生け贄ではなんなので、饅頭にしただけ。その証拠に頭という文字が入っておる」
「そんなの供えられても、すぐに分かりますよ。神様を欺すわけでしょ」
「時代が進むうちに、そんな野蛮な真似はできんようになったのだろう」
「そんなのを聞くと饅頭が薄気味悪くなりますねえ」
「年の暮れから明けるまでの間、魑魅魍魎が跋扈する」
「薄気味悪いこと、言わないでくださいな」
「切り替わるときは、よくあることじゃ」
「何ですかそれは」
「年に一度、その時間帯、闇の時間が少しクロスする」
「そんな大層な」
「除夜の鐘で煩悩を払う」
「たまに突きに行きますよ」
「払われた煩悩が舞っておる。埃のようにな。他人の煩悩をかぶりに行くようなものじゃ」
「しかし、大晦日まで辿り着けただけでまだましな方でしょ。鐘など突きに行けるのですから」
「そうだな」
「もっと縁起のいい話をしてくださいよ」
「良い年をお迎えくださいというだろう」
「そうそう、そう言う風に」
「良い年とわざわざ断らないといけないのだから、これは悪い年もあるということだ」
「でも、悪い年をお迎えくださいじゃ、駄目でしょ」
「そちらの方がリアルで良いかもしれん」
「少し早いですが、あなたと会うのは、今年が最後。良い年をお迎えください」
「君もな」
「はい」
「しかし、今年はまだ残っておる。まだまだ何が起こるのか分かったものじゃない」
「じゃ、暗い正月をお迎えください」
「ああ、そうしょう」
 
   了





2018年12月24日

小説 川崎サイト