小説 川崎サイト

 

未来を先取る


 やはり以前の方がよかったというようなことがある。よりよいはずのものに変えたのに、進歩ではなく後退している。当然時代的に新しいものに変えたのに、その結果を見て、前の方がよかったとなると、これは何とも言えなくなる。言いたいことはあるのだが、それは後悔。
 新しいものに変えるのは元気なとき、またはより積極的に進めたいとき。武器でいえば最新兵器。
 富田はそれでシステムを変えたのだが、以前に戻すことにした。しかし投資したことが無駄になる。先に向かって今現代企てること。投企だ。企画を投げかけ続けることが今だ。
 しかし、今考えている未来と、未来になってからの状態は違っていたりする。そして未来は日々変わる今からの視点。
 富田はその新しいシステム、何処が気に入らないのかと検討した。以前の方がよかったと思ってしまうと、折角の投企が無駄になる。考え方だけを変えるのなら無料だが、投資したので、減る。これは未来に関わる。資金が減る。
 しかし、その新システム、何故そんなものができたのかと、考えてみた。今までよりも軽快になっている。早い。そして手間が掛からない。だから時間の節約になる。早く済むので余裕が出るし、気持ちもいい。だから、これに変えたのだが、早い分だけ荒っぽい。ミスが多い。
 これを許すかどうかで決まる。許すと投資は損にはならない。必要経費。
 許せないとなると大損。
 さて、どちらを取るかと、富田は思案した。
 その新システムがより今風で時代の先を行っていることは確か。いろいろな箇所が簡略化されており、スマート。
 これは感覚的なもので、イメージ的なものかもしれない。先々の雰囲気とマッチしている。すると、この新システム、感覚だけは新しい。
 旧システムに戻そうと思ったのは個々の精度だろう。これが荒っぽい。だから早い。
 富岡はその利点を受け入れるかどうかで迷った。質は落ちるが早くて気持ちがいいし、ある程度の及第点の質は出せる。満足とまではいかないが、何とかごまかしがきく。最低限の合格点。
 安易に、簡易に、そして早く。それを優先させたのがこの新システム。時代に合っているのかもしれない。
 そう考えると、質が落ちるのは目を潰れる。質に拘るから時間がかかる。合格点ギリギリでもいいのではないか。だから古いものに戻さないで、この新しいものを使った方が流れてとしてはいい。
 今風なものを使えば今風な頭になっていくわけではないが、そういう頭に切り替えた方が流れがいい。
 それよりも折角大金を叩いて導入した新システムを無駄にしたくない。これが結局一番大きかったのだろう。
 富田は不満な点は諦めて、使うことに決めた。
 ものに教えられたようなものだが、その同じものが富岡の頭の中にもあったのだろう。全くなければ受け入れられない。またあったからこそこのシステムを買ったことになる。
 そして新システムに切り替えてから数ヶ月経つと、それがいつに間にか標準になってしまい、既に未来を先取りどころか、未来だったものが後退していった。
 
   了
  

  



2018年12月30日

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