小説 川崎サイト

 

陰陽五行説


「陰陽五行説をご存じか」
「一週間のことでしょ」
「え」
「月火水木金土日」
「それの月と日はいらない」
「じゃ、火水木金土」
「陰陽なので二つに分かれる」
「どれが陰で、どれが陽ですか」
「火曜と木曜が陽」
「はい」
「水曜と金曜は陰」
「分かりました。暖かいか寒いかでしょ」
「確かに日は暖かい。暑いといってもいい。木は暖かいかどうかは分からんが、燃える。だから陽」
「水と金は冷たそうです」
「これが五行説」
「土は」
「中間」
「え」
「間」
「じゃ、陰陽五行説じゃなく、陰陽四行説じゃないですか」
「五行説では五つしかないが、陰陽では、あらゆるものがどちらかの性質を持っておる。ものだけではなく、現象もな。人の行為もそうじゃ」
「じゃ、単純な二元論」
「そうとも言えん。この五行が互いに関係し合っておる。相性のようなものがあり、強かったり弱かったりする。まあ、グーチョキパーのジャンケンのようなものかな」
「それがどうしたのですか」
「冬は当然、陰」
「夏は陽ですね」
「春も陽」
「秋と冬が陰ですか」
「男は陽。女は陰」
「分かりました。太陽は陽で、月が陰」
「そうそう」
「分かりやすいですねえ。イメージですね」
「ただ、土が問題なのじゃ」
「はい」
「陰陽五行説では土は陰陽どちらでもないがどちらでもある」
「はあ」
「まあ五行説なのでな、陰陽に分けるとなると、片方が一つ多くなり、また片方が一つ少なくなる。三対二か、二対三になる」
「じゃ、最初から六行説や四行説にすればいいのに」
「それを敢えて五行説にしたところに、意味がある」
「何ですか」
「中間を入れたことじゃ」
「土ですね」
「そうでないと、ただの二元論になる」
「じゃ、土曜が大事なのですね」
「火水木金ときて土日月とくる」
「日と月は五行説には入っていないのでしょ」
「週の終わりと週の初めが繋がっておる」
「確かに日曜日は陽です。しかし翌日の月曜は陰です。いやです。休み明けは。月曜はいやです」
「明治になってからかもしれんが、土曜日は半ドン。役所がそうだったのかどうかは分からんが、午前中で終わる。土曜の当て方としてはふさわしい」
「火曜水曜木曜金曜の割り当てはどうですか」
「陽陰陽陰の並びになり、綺麗に交互に来る。見事じゃ」
「それは自然界を模した原理のようなものですか」
「それもある。分かりやすいからな。しかし、その性格付けは人為的なものだろう。規律、規範、それに役立つ。だから本来のものとは違ったりする。
「たとえば」
「女性は月や海。男性は太陽や大地。これは強引じゃな。陰陽五行説のような中間がない」
「土曜日がやはり曲者ですねえ」
「半日仕事で、半日休み」
「仕事は陰ですね。そのあと陽気な休み。そういうの、役に立ちますか」
「水は土に弱く、土は金に弱いが、土から金が生じる」
「分かりました。土曜日は休みですが、バイトに行きます」
「そういう話ではないのじゃがなあ」
 
   了






2019年1月11日

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