小説 川崎サイト

 

蓬莱窟


 蓬莱窟の場所を知っている人物をやっと探しあてたが、ただでは教えてくれない。大金を払っても無理だが、どうせそんな金はない。脅しつけて聞き出すのも気が引ける。
 しかし、この人物、困った人ではないが、困りごとがあるらしく、そのことを知る。それを解決してやれば蓬莱窟を教えてくれるらしい。
 この人物の娘が行方不明になり、それを探し出せばいい。この人物もそれなりに探したのだろうが、それでも見付からないとなると、赤の他人では無理。また人にも頼んでいるはず。
 既に亡くなっているのか、または進んで家を出たのかもしれない。それなら生きていても姿を表さないだろう。
 蓬莱窟。それは人が掘った横穴で、そこに貴重なものがあるらしい。しかし、何処にあるのか分からないのだから、行きようがない。娘もそうで、行方不明で手掛かりもないので、探しようがない。
 ところが先に娘の手掛かりが分かった。その手掛かりを知っている人がおり、その人を探すことになる。その人は旅の商人。これは分かりやすいが、今何処にいるのかは分からない。四日前まで滞在していた宿場がある。それで場所ぐらいは分かる。
 宿場宿場を泊まりながら旅をしているのなら、計算すれば、どのあたりの宿場にいるのかが分かる。急いで行けば、商人の行く距離をどんどん縮められる。
 数日で、旅の商人が昨夜までいた宿屋を見付ける。そして翌日、宿場近くの村で櫛や簪を売っているところを押さえた。
 商人に娘のことを聞くと、それらしい娘から話しかけられた同業者から聞いたという。この櫛売りは直接娘とは会っていない。
 それで、その別の商人、これは膏薬売りだが、商売に出るのはたまで、いつもは故郷にいるらしい。そこで膏薬を作っているらしい。
 その故郷へ行くと、幸い狭いエリアで商っているらしく、近い場所にある。少し山奥だが。
 それで膏薬売りに娘のことを聞くと、その娘は遊女らしい。旅の遊女なのだ。年格好は合っているが、どうして遊女などになったのかは分からない。しかし、その遊女が嘱する場所がある。何らかの組織に入っているのだ。勝手にやっているわけではない。
 その家を教えてもらう。
 しかし、廃業したらしく、もう遊女の住処ではなくなっていた。
 だが、多少の手掛かりを得たので、蓬莱窟を知っているあの人物に知らせに行った。探しても見付からなかったが、最新情報を伝えることで、蓬莱窟の場所を教えてくれるかもしれないと思ったわけではないが、それ以上探すのが億劫になったのだろう。 その人物、つまり娘の親だが、その消息を聞いただけで安堵したようだ。娘が行方をくらましたのは、遊女になりたかったため。親はとんでもない話だと思い、当然許さない。
 それで改めて蓬莱窟のあり場所を聞くが、やはり駄目だった。
 それでもその人物の家業の炭焼きを手伝ったりして、粘っているとき、遊女が帰ってきた。
 その容姿を見て、これは客など付きようがない。だから遊女見習いのまま終わったらしい。
 娘は炭焼きを手伝い、元に戻った。
 その娘から蓬莱窟のことを聞くと、簡単に教えてくれた。すぐ近くの渓谷にあるらしい。
 言われた通りの険しい道を下って渓谷に出る手前で、もうその横穴ははっきりと見えていた。これなら、自分で探しても見付かっただろう。
 人が掘った横穴だけに浅い。その奥まで入っても光は届く。
 やっと探し当てた蓬莱窟だが、めぼしいものはない。壁に仏像の浮き彫りがあるだけ。しかし、岩盤を掘り、さらに仏像まで刻むのだから、長い年限が掛かっただろう。
 仏像は入り口付近に多くなり、奥へ行くと、もうないが、掘りかけの仏像がある。岩に刻んだ磨崖仏だが、途中で放置している。これが展示場なら、まだまだ展示できるスペースがある。
 それでがっかりして戻り、炭焼きの男に、あれはどういうことかと聞く。
 すると、あれを彫っているとき涅槃状態になり、不老不死の仙人になったような気になるとか。だから、そんなバカな真似をさせないように教えなかったらしい。
 蓬莱窟を探していたこの男も、それで納得したようだ。そして、炭焼きの娘と結婚した。
 そこを立ち去らなかったのは、あの蓬莱窟、それだけのモノではなく、まだこの炭焼きが本当のことを隠していると感じたため。
 それから歳月が流れ、炭焼きは老いて亡くなった。最後まで蓬莱窟の秘密は聞き出せなかった。
 二人の間にできた子が娘になった頃、行方不明となる。間を置かず、さっと旅人が訪れ、蓬莱窟の場所を聞きに来た。
 
   了
 



2019年1月13日

小説 川崎サイト