小説 川崎サイト

 

階段落ち


「これはよく見る夢なんですが」
「はい、お話しください」
「階段の夢です。鉄の階段でして、壁沿いにあります。その階段がぐらぐらするんです」
「それは知っている階段ですか」
「そうです、昔住んでいた木造モルタル塗りの文化アパートです。しかし階段や二階の通路だけは鉄骨が入っています。むき出しの。だから階段も鉄です」
「それは昔住んでいた場所の階段というだけの夢でしょ。だから思い出のようなもの」
「上り出すとぐらぐらがひどくなり、一段ほど欠けていたり穴があったりで、それに二階への階段なのに、長くなっているのです」
「ほう」
「そして上りきるのですが、外側の手すりがぐらぐらで、その端の鉄柱も頼りないものでして、横へ回転するのです。上の屋根から外れているのです」
「それは実際にありましたか」
「ありません。夢の中だけでの話です」
「それから?」
「今度は下りるときが大変で、上るときよりも怖いのです。上るときに比べ、勾配が強くなっています。それに下を見ると、地面が遠い。三階か四階ほどあります。それで下りられないのです」
「部屋はどうなっています」
「部屋の中は夢では出てきません。階段付近だけです」
「はい」
「結局、勇気を出して下り始めるのですが、途中で階段がガクンガクン、がーんがーんと音を立てて壊れ始めました。先ず手すりが落ちました。そして壁沿いだったのが、そこから外れて、空中に浮いているのです。これは危ないと思いながら何段か下りると、ちょん切れました。それががーんと地面に落ちました」
「それは危ない」
「もう階段か何か分からないものにぶら下がっている状態です。これは落ちる。下に落ちるとワーとなったとき、夢が覚めました。このバリエーションは複数あるのですが、まあ似たようなものです。これは何でしょう」
「階段が落ちる夢でしょ」
「そうです」
「階段落ち」
「え」
「階段からあなたが落ちるのではなく、階段が落ちる夢で、それを階段落ちといいます」
「そういうタイプの夢があるのですね」
「そうです」
「それは何を表しているのですか」
「ただの落とし話でしょ」
「意味はないと」
「はい」
 
   了


2019年1月16日

小説 川崎サイト